【目的】心臓線維化は慢性心不全における主要な危険因子である。当研究室では心不全におけるProtein arginine methyltransferase 5 (PRMT5) の機能解析を進めている。心臓線維化の進展において、線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化が重要であり、この過程は様々なエピジェネティック因子により制御されているが、心臓線維化におけるPRMT5の機能は未だ明らかになっていない。そこで本研究では、動物モデルにおいて、線維芽細胞内のPRMT5が、圧負荷応答性の心臓線維化にどのような影響を与えているか検討することを目的とした。
【方法・結果】Col1A2MerCreMer (MCM) マウスとPRMT5Flox/Floxマウスとの交配を行い、線維芽細胞特異的にPRMT5をKOしたマウスを作成した。また、心不全時に活性化した心臓線維芽細胞におけるPRMT5の機能を解析するため、Periostin (Postn) 陽性線維芽細胞特異的なPRMT5のKO(PostnMCMマウスとPRMT5Flox/Floxマウスとの交配)を行った。作成したマウスにタモキシフェンを投与 (40 mg/kg) し、PRMT5のKOを誘導し、大動脈縮窄術 (TAC) を行うことで、圧負荷応答性心不全モデルを作成した。手術8週後に心臓超音波検査、摘出した心臓を用いて、心体重比測定、HE染色、WGA染色、ピクロシリウスレッド染色、蛍光免疫染色(αSMA)、qRT-PCR (αSMA, Postn) を行った。心機能について、TACによる左室駆出率の低下、左室後壁厚の増加は、PRMT5のKOにより有意に改善した。心体重比はTACによって増加し、Col1A2MCM ; PRMT5Flox/FloxマウスにおいてPRMT5のKOによる有意な変化はみられず、心筋細胞面積においても同様の結果が得られた。PostnMCM ; PRMT5Flox/Floxマウスにおいては、心体重比、心筋細胞面積の抑制がみられた。心臓の線維化はTACによって増加し、PRMT5のKOで有意に抑制された。
【考察】以上の結果より、線維芽細胞特異的PRMT5ノックアウトマウスでは、圧負荷応答性の心臓の線維化、収縮能の低下を抑制することが示唆された。今後PRMT5が、心不全の新たな治療ターゲットとなることが期待される。