【背景】Trigger-based AFは近年提唱された心房細動(AF)持続の病態の一つであり、難治性AFに位置付けられている。しかしながら、心房におけるトリガーの発生に関わる要因は明らかでない。持続性心房細動患者の血漿 aldosterone 濃度が健常者と比べて有意に高値であることに注目し、本研究では、aldosteroneが心房におけるトリガーの発生およびAFの持続性に与える影響を正常ラットおよび慢性容量負荷モデルラットを用いて検討した。
【方法】Wistarラット8週齢を動静脈瘻(AVS)形成処置およびaldosterone(Aldo)投与の有無により4群(Sham群、Sham+Aldo群、AVS群、AVS+Aldo群)に分けた。AldoはAVS処置と同時に腹腔内に留置した浸透圧ポンプより持続的に投与し、術後25-28日の時点で心房中隔に電極カテーテルを留置することで電気生理学的評価を行った。
【結果】Aldo投与群(Sham+Aldo、AVS+Aldo)において、心房期外収縮の発生が全例で観察された。また、自発的な心房細動の発生がSham+Aldo群の1/8例(約13%)、AVS+Aldo群の5/6例(約83%)に観察された。一方で、Aldo非投与群(Sham、AVS)では心房期外収縮はほとんど観察されず、自発的なAFの発生は一例も認めなかった。高頻度刺激により誘発したAFの平均持続時間は、Sham+Aldo群はSham群(12±4秒)の約2倍であったが、AVS+Aldo群はAVS群(14±3秒)の約8倍に延長し、最長で59分間持続する心房細動が観察された。心房内伝導速度を反映する体表面心電図のP波幅は、4群の中でAVS+Aldo群が最も長く、Sham群に比べて有意に延長した。一方で、心房有効不応期は4群間に有意な差を認めなかった。また、心房重量はAVS処置により有意に増大したが、Aldo投与の有無による群間差は認めなかった。
【結語】Aldosteroneはトリガーの発生を通じてAFの持続に対し促進的に作用し、その作用は慢性容量負荷の存在下で強く顕在化した。このことから、trigger-based AF発生基盤の構築には、慢性容量負荷による心房リモデリングに加えてaldosteroneが重要な因子である可能性が示唆された。