【目的】心疾患は我が国の主な死亡原因の1つであり、中でも慢性心不全は予後不良であり克服すべき重要課題である。慢性心不全の治療薬について開発研究が進んでいるが、心不全の重要なリスクファクターである心肥大および心線維化の抑制を作用機序とする治療薬は開発途上である。ハナショウガの主成分であるZerumbone (Zer) は様々な生理活性を有しているが、心不全に対する作用は不明である。そこで本研究では、心筋細胞肥大、心臓線維化および圧負荷心不全に対するZerの薬理効果の検討を目的とした。
【方法・結果】新生仔ラット初代培養心筋細胞に対してZer (0.3-3 µM) で前処理し、2時間後、フェニレフリン (PE) 刺激を行い、心筋細胞面積測定及び心肥大マーカーANFおよびBNPのmRNA量、またWBにてAktのリン酸化を検討した。PE刺激による心肥大応答、Aktのリン酸化増加はZerにより有意に抑制された。次にZerで前処理した新生仔ラット初代培養心臓線維芽細胞に線維化応答を誘導するTGF-β刺激を行い、L-Proline取り込み量と線維化関連遺伝子の発現を検討した。ZerはTGF-βによるL-Proline取り込み量の増加を有意に抑制した。さらにZerは筋線維芽細胞マーカーであるα-SMAのmRNAおよびタンパク質発現量の亢進を抑制した。続いてC57BL/6j雄性マウスに大動脈縮窄術 (TAC) を施し、手術の翌日よりZer (20 mg/kg/day) 及びVehicleを連日経口投与した。手術8週間後、心臓超音波検査、心重量、ANF, BNPの発現量、心筋細胞面積の測定を行った。TACによって左室後壁厚は増加し、左室短縮率は低下したが、Zer投与群でそれぞれ有意に改善した。またTACにより亢進した心肥大はZer投与群において有意に抑制されていた。最後に心臓組織を用いてWBにてAktのリン酸化を検討したところ、TACによるAktのリン酸化の増加は、Zer投与で有意に抑制された。
【考察】本研究より、Zerは心筋細胞においてAkt経路を阻害し、また線維化反応を阻害することで、圧負荷応答による心不全を抑制することが示唆された。今後、Zerを用いた心不全予防の開発につながることが期待される。