【背景・目的】我々はdl-sotalolのl体の有するβ受容体遮断作用がd体およびl体によるIKr遮断に起因するQT間隔の延長とshort term variabilityの増大を促進し、TdP発生を増加させることを報告した(J Pharmacol Sci 2019:141:86-89)。一方、risperidoneは強力なIKr抑制作用(IC50 0.26 µM)を有するにもかかわらず、無麻酔下で催不整脈モデル犬に過量(3 mg/kg/10 min, iv)投与してもTdPを誘発させなかった(J Pharmacol Sci 2020:143:330-332)。Risperidone投与後に生じる血圧低下が反射性に交感神経緊張を亢進させ、TdPの発生を抑制したと推測されているので、本研究ではこの仮説を検証した。
【方法】ビーグル犬をthiopental sodium(30 mg/kg, i.v.)で全身麻酔し、房室結節をカテーテル焼灼し、完全房室ブロックを作製した。手術後6週以上経過した個体を催不整脈モデルとして実験に使用した(n=4)。無麻酔下でホルター心電計を装着し、体表面第II誘導心電図測定下で、β1遮断薬atenolol(1 mg/kg)を5分かけて静脈内投与した。Atenolol投与開始10分後にさらにrisperidone(3 mg/kg)を10分かけて静脈内投与した。Atenolol投与開始1時間前から投与後21時間までの心電図を解析した。
【結果】Atenolol投与前のQT間隔、J-Tpeak、Tpeak-Tendおよび心室拍動数は324±16 ms、196±16 ms、46±3 msおよび33±2 bpmであった。Atenolol投与後心室拍動数は15±3 bpmに減少し、4例中1例でTdPが発生し、心室細動に移行した。一方、risperidone投与開始後3例中2例でTdPが発生し、内1例は心室細動に移行、残りの1例は自然停止した。
【結語】β受容体遮断作用はTdP発生リスクを増大することが確認された。また、β受容体遮断下ではrisperidoneの催不整脈作用が増強したので、交感神経緊張はrisperidoneによるTdP発生に対して抑制的に作用すると考えられた。