【背景・目的】近年、アルコールやウイルス感染を原因としない非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者数が増加している。肝組織の炎症と線維化を伴うNASHが不可逆的に進行すると、最終的には肝硬変や肝癌などの重篤な疾患へと繋がる。よって、肝線維化の責任細胞である肝星細胞(HSC)の活性化機構や活性化されたHSCによるコラーゲン産生の制御機構の解明は、肝線維化治療ターゲットの探索において有益と考えられる。そこで、HSCの活性化やコラーゲン産生に作用する薬物の探索を行ったところ、二重特異性チロシンリン酸化制御キナーゼ(DYRK)阻害薬であるharmineがHSCのコラーゲン産生を抑制する可能性を示す予備検討結果を得た。Harmineは自然界に広く分布するβ-カルボリンアルカロイドである。一方、harmineにより阻害されるDYRK は、ダウン症候群や糖尿病の治療ターゲットとして近年注目されているリン酸化酵素である。また、DYRKはNuclear factor of activated T-cells(NFAT)を介した経路によりコラーゲン産生に関わることが知られている。本研究では、HSCにおけるコラーゲン産生に対するharmineの作用とその機序の解明を目的とした。
【方法】実験には、ヒト由来HSC株LX-2を用いた。LX-2細胞の活性化刺激には、肝線維化に関わる代表的なサイトカインであるトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1; 5 ng/ml)を用いた。TGF-β1とharmine(1, 10 μM)をLX-2細胞に処置し、COL1A1およびNFAT1の発現をwestern blot法にて解析した。さらに、HSCによるコラーゲン産生へのDYRKファミリーの関与を検証するため、DYRK1A、DYRK1B、DYRK 2の各アイソフォームをsiRNA により遺伝子ノックダウンし、real time-qPCR法にてCOL1A1の発現を解析した。
【結果・考察】TGF-β1刺激により、LX-2細胞におけるCOL1A1発現の増大が誘発され、このCOL1A1の発現増大はharmine(10 μM)により有意に抑制された。同様にTGF-β1刺激により増大したNFAT1の発現をharmineは濃度依存的に抑制した。すなわち、TGF-β1刺激によるHSCのコラーゲン産生にDYRKを介したシグナルが関わっている可能性が示された。そこで、DYRK各アイソフォームをsiRNAによりノックダウンしたLX-2細胞を用いた検討を行った。その結果、DYRK1Bをノックダウンした場合においてのみ、COL1A1発現が有意に抑制された。以上より、harmineはHSCにおけるTGF-β1誘発コラーゲン産生を抑制する作用を有し、その作用はDYRK1Bの抑制を介することが示唆された。

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