交感神経は、外環境変化に循環動態を適応させるために必須の自律神経である。交感神経終末から放出されたノルアドレナリンは、心臓の陽性変時変力作用、末梢血管の収縮調整、体液量調整などを介して、全身の循環動態の恒常性維持に重要な役割を果たす。このような成体における循環動態制御に加えて、別の角度からも交感神経の重要性が近年注目されている。その一つが心臓の発達における役割である。マウスやヒトでは交感神経の心室支配は生下後に完了する。これにより、例えば、心筋細胞の成長が細胞増殖から肥大へと変化したり、興奮収縮連関機構が変化したりすることが報告されている。しかしながら、これらの多くの研究はin vitroでの交感神経と新生児心筋細胞の共培養系等を用いた研究から明らかにされている。そのため、in vivoにおける交感神経支配と、心筋細胞の形質変化がほぼ完了する離乳期(生下後約20日(P20))までの心臓発達との因果関係はほとんど明らかにされていない。本研究では、生下後1日の新生児マウスに6-hydroxydopamine (6-OHDA)を投与することにより交感神経を除神経し、心臓の収縮機能への影響を解析した。心エコー解析から、P21における心室の収縮力が6-OHDA投与により有意に抑制されることが明らかになった。単離心筋細胞を用いた電気生理学的解析から、電位依存性L型カルシウムチャネル活性は、6-OHDA投与による影響が見られなかったが、6-OHDAが投与された細胞においては、有意な細胞膜容量の低下が観察された。そこで、生細胞の蛍光染色により細胞膜構造の解析を行った。その結果、6-OHDAは心筋細胞全体の大きさには影響を与えなかったが、心筋細胞内のT管構造の発達を抑制していた。以上の結果から、交感神経支配は、心臓の離乳期までの発達において、心筋細胞の構造的成熟に重要な役割を果たしていることが示唆された。