小児心不全は小児の重要な死因であり、先天性心疾患、心筋症、心筋炎、川崎病などによって起こる。これらの多くは単遺伝子変異を原因としており、かつその変異が各々の患者で異なる場合が多い。その多様性がゆえに大規模臨床治験が困難で、現在世界的にもエビデンスのある治療薬は存在しない。特に乳幼児期に発生する小児心不全は極めて重症で劇的な転機をとり、その治療薬の開発は重要な課題である。これまでに我々は、アンジオテンシンII(AngII)が、新生児・乳児期マウスの心室筋細胞のL型Ca2+チャネルを活性化することを報告した。この作用は、AT1受容体(AT1R)/βアレスチン2経路を介したものである。これまでに我々は、AT1R/β-アレスチン2経路のバイアスアゴニスト(BBA)の心臓への作用について研究を行ってきた。離乳前のマウスにペプチド性BBAであるTRV027を投与すると、有意かつ持続的な強心作用が認められた。一方、TRV027の投与によって、頻脈、不整脈、心筋細胞酸素消費量増加、活性酸素種(ROS)の増大など、ほかの強心薬に見られる副作用は認められなかった。またTRV027は、胎児期~乳幼児期の表現型を示すヒトiPS細胞由来心筋細胞の単収縮Ca2+トランジェントを倍増させた。さらに、ヒト先天性拡張型心筋症モデルの新生児・乳児期マウスを用いた検討から、TRV027は収縮力の低下した病的心においても強心作用を示した。このモデルマウスは離乳期までに約8割の個体が死亡するが、生後1日目からTRV027を継続投与すると、その離乳前生命予後が有意に改善された。したがって、BBAは乳幼児心不全に対し新たな治療法となることが強く示唆された。現在我々は、BBA活性を有する小分子探索を行っており、乳幼児心不全患者にとって負担の少ない治療薬の開発を目指し、研究を進めている。

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