【背景・目的】
心臓の機能制御とCa²⁺動態の間には密接な関係が存在し、病態により収縮・拡張機能に障害が起きることが知られている。近年、心不全の要因の1つとして拡張機能障害が注目を集めており、糖尿病によって引き起こされる心筋障害に関しても拡張不全が生じている。当研究室では、心筋の弛緩機能に関与する筋小胞体のCa²⁺‐ATPase(SERCA)に着目し、抗酸化作用を持つellagic acidおよびgingerolが心筋の弛緩機能を改善することを報告した。そこで本研究では、同じフェノール系物質で抗酸化作用を持つQuercetinのSERCA機能と心筋の弛緩機能に対する影響を検討した。
【方法】
ddY系雄性マウス(4週齢)にstreptozotocin(STZ)を腹腔内投与(200 mg/kg)後、5~7週間飼育し、血糖値が400 mg/dL以上のものを糖尿病マウスとして用いた。また対照群として、STZの溶媒であるcitric acid(pH4.5)を同量投与したものを正常マウスとした。正常および糖尿病マウスから摘出した右心室筋組織標本および単離心室筋細胞を作成し、マグヌス法を用いた弛緩時間の測定および蛍光イメージング法を用いたCa²⁺transient測定を行った。
【結果・考察】
右心室筋組織標本における弛緩時間は、正常心筋に比べ糖尿病心筋において長かった。単離心室筋細胞におけるCa²⁺transientの減衰時間は正常心筋に比べ、糖尿病心筋において長かった。SERCA阻害薬であるcyclopiazonic acid(CPA)処置により、正常および糖尿病心筋のどちらの場合も弛緩時間を延長させ、その作用は正常心筋においてより顕著であった。 Quercetin処置により、正常および糖尿病心筋のどちらの場合も弛緩時間を短縮させ、さらにCa²⁺transientの減衰時間を短縮させた。また、その作用は糖尿病心筋においてより顕著であった。さらにQuercetinによる弛緩時間の短縮はCPA処置により消失した。
以上の結果より、STZ誘発糖尿病マウス心筋の弛緩機能障害は、SERCA機能の低下により引き起こされており、QuercetinはSERCA機能を亢進することで弛緩時間を短縮し、STZ誘発糖尿病マウス心筋の拡張不全を改善する可能性が示唆された。