DHAは代表的なn-3系多価不飽和脂肪酸であり、数多くの疫学調査や臨床研究により、DHAの摂取が様々な循環器系疾患に対して有益な予防効果を発揮することが示されている。これらの効果は、DHAの長期摂取による収縮性・炎症性プロスタノイドの産生の抑制によるものだと考えられてきた。一方、当教室では、DHAがラット大動脈・腸間膜動脈のU46619(TP受容体刺激薬)およびPGF2αによる収縮を即時的かつ著明に抑制することを見出し、これがDHAの循環器系保護効果の一端を担う可能性を示した。トロンボキサンA2やPGF2αは冠動脈や脳動脈においても強力な攣縮因子となることが示されていることから、これらの血管においてもDHAが同様な抑制効果を示すかどうか非常に興味深いが、これまでのところ検討はされていない。そこで、本研究では、U46619およびPGF2αで誘発される冠動脈及び脳動脈(脳底動脈)の収縮に対してDHAが抑制効果を示す可能性をブタ由来組織を用いて検証することにした。また、TP受容体がDHAの主たる標的となりうる可能性を検証する目的で、TP・FP受容体安定発現細胞株を用いて細胞内Ca2+濃度変動を指標にDHAの影響を検討した。
摘出ブタ冠動脈および脳底動脈のいずれにおいても、DHAはU46619およびPGF2αによる持続性収縮を濃度依存的に強力に抑制したが、80 mM KClによって誘発される脱分極性収縮にはほとんど影響を与えなかった。SQ 29,548(TP受容体拮抗薬)は、U46619/PGF2αによる収縮を冠動脈では約90%/70%、脳底動脈では約100%/60%抑制した。ヒトTP受容体発現細胞において、DHAはU46619およびPGF2αによる細胞内Ca2+濃度の上昇を非常に強力に抑制した。しかし、ヒトFP受容体発現細胞では、DHAはPGF2αによる細胞内Ca2+濃度の上昇に影響を与えなかった。
これらの結果から、DHAはブタ冠動脈および脳底動脈のTP受容体を介した収縮を強力に抑制することが明らかとなり、この収縮抑制作用の主たる機序としてTP受容体の抑制が関与する可能性が示された。また、DHAが収縮性プロスタノイドによりTP受容体を介して誘発される冠・脳血管の攣縮に対して有効な予防効果を示し、これがDHAの循環器系保護効果の一端を担う可能性が改めて示された。