【目的】我々は,矯正力負荷による疼痛を,開口反射誘発電気刺激閾値(TH)の変化で定量評価可能な動物モデルを報告した。本モデルでは,THが矯正力を負荷した右側で,反対側よりも有意に低下し,三叉神経節(TG)のサテライトグリア細胞にグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現を伴う興奮を惹起する。先行研究で,transient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)拮抗薬の腹腔内投与が,開口反射ならびに三叉神経節の興奮を有意に抑制した。しかしながら,TRPV1拮抗薬の全身投与は深部体温上昇といった副作用があり,臨床応用は困難と考えられる。そこで本研究では,歯の移動に対する疼痛や三叉神経節興奮に対する,TRPチャネル拮抗薬の局所投与効果を検討した。
【方法】イソフルラン全身麻酔下で,雄性Wistarラットの上顎両側門歯と右側第一臼歯(M1)間にコイルスプリングを装着し,矯正力を負荷した。矯正力負荷1日後に,全身麻酔下で気管挿管を行い,TH1を測定,継続して60分間に亘り閾値(TH2-4)を計測する(0.006 Hz)。薬物塗布は,矯正力負荷直後(D0群),もしくはTH1測定後(D1群)に右側M1歯頚部歯肉に行った。TH測定中に,直腸温および歯肉溝温度を測定した。その後ラットを灌流しTGを摘出し,厚さ10 μm水平断凍結切片を作製し,免疫蛍光染色にて,V1,V2,V3領域のGFAP発現を評価した。(n = 5)
【結果】D0群におけるTRPV1拮抗薬(AMG9810: 2-4%)塗布は,1日後の右側THをvehicle塗布よりも有意に上昇させた。D1群では,TRPV1拮抗薬のAMG9810,A-889425ならびにTRPA1拮抗薬のA-967079,HC030031の塗布(2-4%)は,TH1と比較して,TH3とTH4を有意に上昇させた。また,4%AMG9810と4%A-967079の同時塗布により鎮痛効果に協力作用が認められた。一方,いずれの塗布もTGのGFAP発現に影響を与えず,直腸温と歯肉温度も変化しなかった。
【考察及び結論】TRPチャネル拮抗薬の歯肉塗布は,矯正力負荷による疼痛抑制に有効であり,また,全身投与で起こる体温上昇などの副作用を生じなった。以上より,歯の移動に伴う疼痛の抑制には,複数のTRPチャネルを抑制することが効果的と示唆された。