痛みや痒みは、それぞれ末梢の侵害受容体及び掻痒受容体刺激により一次求心性神経を介して脊髄後角へ入力後、上位中枢へと伝達されることで認識される。近年、痛みや痒みのシグナル伝達経路において、一部共通した神経回路が存在することが報告されている。痛みや痒みの病態時に神経の過剰興奮が生じていることから、中枢神経をターゲットとした疼痛や掻痒の制御は治療戦略として重要である。当研究室では、神経興奮制御に重要な役割を担っているKCNQ(Kv7)K+チャネルの開口薬であるretigabineが、神経障害性疼痛と急性掻痒のそれぞれのモデルマウスにおいて抑制作用を示すことを先行研究で明らかにしている。マウスなどのげっ歯類の頬に発痛物質または起痒物質を皮内投与すると、それぞれwiping (痛みを反映する)とscratching (痒みを反映する)という異なる行動を示すことが知られている(cheek model)。本研究では、このcheek model を用いてretigabineの急性疼痛及び急性掻痒に対する効果の検討を行った。
マウスの頬に皮内投与したクロロキン(0.1, 0.2及び0.4 μmol/10 μL)は、用量依存的にscratching回数を増加させ、wiping回数には影響を与えなかった。一方、カプサイシン(1, 10及び40 μg/10 μL)は、用量依存的にwiping回数を増加させたが、scratching回数には影響を与えなかった。鎮痒薬の選択的オピオイドκ受容体作動薬ナルフラフィン(10, 20及び40 μg/kg)をクロロキン(0.4 μmol/10 μL)あるいはカプサイシン(40 μg/10 μL)の皮内投与30分前に腹腔内投与すると、カプサイシン誘発性のwiping回数を変化させずにクロロキン誘発性のscratching回数を有意に抑制した。このようにcheek modelでは、痛みと痒みそれぞれが異なる行動として表れ、一つの評価系で痛みと痒みに対する薬物の作用を調べることが可能である。このcheek modelでretigabine (10及び30 mg/kg)をクロロキン(0.4 mmol/10 mL)あるいはカプサイシン(40 μg/10 mL)の皮内投与15分前に腹腔内投与すると、retigabine (30 mg/kg)は、カプサイシン誘発wiping回数を有意に減少し、クロロキン誘発scratching回数を減少させる傾向を示した。よってretigabineは、痛みと痒みの両方を抑制するが、痒みよりも痛みに対してより強い抑制作用を有すると考えられる。

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