【目的】
我々は睡眠・覚醒や摂食などを調節するorexin-Aの知覚神経への作用機序に関する一連の研究から,一次知覚神経へ入力するorexin神経の活動性が慢性炎症性疼痛により低下する可能性を指摘した(Ishikawa et al., 2018)。また中脳辺縁系dopamine(DA)神経が投射する側坐核では,orexin-Aの作用するorexin受容体を介してorexin神経が基礎的なDA神経活動を抑制することを昨年の本学会で報告した。しかし,慢性炎症性疼痛が側坐核のDA神経活動のorexin受容体による制御へ及ぼす影響は明らかでない。そこで本研究では,慢性炎症性疼痛モデルラットの側坐核のDA放出のorexin受容体による制御の特徴について,orexin受容体のagonistのorexin-AとantagonistのMK-4305の側坐核への灌流投与が同部位の細胞外DA量に及ぼす効果を指標として脳微小透析法で検討した。
【方法】
実験にはS-D系雄性ラット(約200 g)を用いた。透析プローブ装着用ガイドカニューレの植立手術から約1週間後,後肢足底へ2% carrageenanを含むsalineまたはsalineのみをそれぞれ0.25 ml皮下投与し,投与部位への機械的刺激が起こす回避行動を24時間毎に解析して実験的な慢性炎症性疼痛の発症を確認した。Carrageenanまたは溶媒の投与から約48時間後,側坐核に留置した透析プローブに改良リンゲル液を流速2 μl/分で灌流し,無麻酔非拘束の条件下で微小透析膜(直径220 μm,長さ2 mm)を介して5分毎に回収した細胞外液中のDAをHPLC-ECD法で定量した。Orexin-AとMK-4305は灌流液に溶解し逆透析で側坐核に60分間灌流投与した。これらの投与量は灌流液中の絶対量(g)で示した。
【結果】
対照群の側坐核のDA量はorexin-A(35 ng)の投与では著しい変化がなかったが,MK-4305(50 ng)の投与で約49%増加した。このMK-4305によるDAの増大をorexin-A(35 ng)の併用は抑制した。Carrageenan処置群の側坐核のDA量は,orexin-A(35 ng)による影響がなかったほか,MK-4305(50 ng)の投与では約25%しか増加しなかった。基礎DA量は対照群とcarrageenan処置群との間で殆ど差がなかった。
【考察】
MK-4305による側坐核のDA放出促進作用は,慢性炎症性疼痛モデルラットで減弱することが示された。その一因として,このモデル動物の側坐核のorexin受容体を介したDA神経活動の抑制の低下が推察された。また側坐核の基礎DA神経活動には本研究の実験的な慢性炎症性疼痛による影響は少ないことが考えられた。

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