海馬体とその周囲の海馬傍回は動物の記憶、学習、空間探索に重要である。中でも海馬傍回に含まれる前海馬支脚は、空間的な情報処理の役割を担っている。特に、前海馬支脚の興奮性ニューロンは、動物が特定の方向を向いた時に選択的に発火し、その方向選択性は前海馬支脚内のソマトスタチン陽性インターニューロンと興奮性ニューロンとの相互作用により生み出されている。さらに、前海馬支脚ニューロンの方向選択的な発火は動物の開眼前(およそ生後14日齢)から生み出されることが知られている。
しかし、従来の研究では、発達に応じた前海馬支脚の空間表象が電気生理学的に研究されてきた一方で、その組織学的な特徴は明らかではなかった。
本研究の目的は、前海馬支脚の発達に応じた組織学的な特徴を解明することである。具体的に、前海馬支脚表層が小胞性グルタミン酸トランスポーター2(VGluT2)によって定義できることを証明し、発達に応じた前海馬支脚内のインターニューロンの分布の推移を明らかにした。
当研究室の先行研究から、VGluT2が前海馬支脚表層のマーカータンパク質の候補であると予想した。本研究では、まず、順行性トレーサー(アデノ随伴ウイルス(AAV))を視床前腹側核(前海馬支脚の表層に投射している)にインジェクションし、2週間の回復期間の後、脳切片を作製し、VGluT2で免疫染色をおこなった。その結果、AAVの投射先の領域が抗VGluT2抗体による染色領域と高い相関を示すことを見出した。以上の結果から、VGluT2が前海馬支脚表層を定義できることが示唆された。
次に、VGluT2を前海馬支脚表層のマーカーとして利用し、動物の発達に伴う前海馬支脚の変化について、インターニューロンの分布に注目して検討した。その結果、前海馬支脚表層に存在するパルブアルブミンインターニューロンの細胞密度が発達に応じて増大する傾向を示す一方、ソマトスタチンインターニューロンはそのようなことが見られなかった。また、VGluT2陽性のパッチ構造がP12以降に出現することを発見した。これらの特徴は前海馬支脚の空間選択性と関連する可能性があると考えられた。

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