唾液には漿液性と粘液性があり、前者は主に耳下腺から、後者は主に顎下腺と舌下腺から分泌される。相対的に漿液性唾液の分泌量が減少すると口腔乾燥状態になる。この状態が持続する病態を口腔乾燥症(ドライマウス)という。ドライマウスは、齲蝕や歯周病の増悪、発音障害、嚥下障害などによりQOLの低下をもたらす。実際にドライマウスに悩む患者には中高齢者が多い。よって加齢現象は、漿液性唾液の分泌量減少を引き起こす要因の一つと考えられる。しかし、耳下腺の加齢変化がドライマウス発症にどう関与するか明らかではない。一方、ヒトやラットを用いた由来唾液腺別の唾液成分解析において、総脂肪酸量は耳下腺由来の唾液が顎下腺および舌下腺由来の唾液よりも多い報告がある。耳下腺細胞に取り込まれた脂肪酸は、エネルギー代謝やタンパク質修飾などを介して唾液分泌に影響すると考えられる。そこで我々は、耳下腺は加齢により脂肪酸の取り込み量が変化し、漿液性唾液の分泌量が影響を受けると仮説を立てた。本研究では、48週齢の老化促進マウス(SAMP1マウス)とその対照マウス(SAMR1マウス)を用いて、臨床で口腔乾燥状態改善に用いるムスカリン受容体作動薬ピロカルピン刺激による唾液分泌量と耳下腺における脂肪酸輸送体CD36発現量との関連性を検討した。メデトミジン・ミダゾラム・ブトルファノールによる三種混合麻酔下にてピロカルピン(0.5 mg/kg体重)を腹腔内投与し、その後20分間の唾液分泌量を測定した。SAMP1マウスはSAMR1マウスに比べて、唾液分泌量が有意に減少した。両マウスの耳下腺ライセートを作製し、抗CD36抗体を用いたウェスタンブロッティングを行ったところ、SAMP1マウスではSAMR1マウスに比較してCD36が有意に減少した。以上より、48週齢のSAMP1マウス耳下腺では、CD36の発現量が低下することにより脂肪酸の細胞内への取り込み量が減少し、そのことが漿液性唾液の分泌量の変化に関わる可能性が考えられた。今後、耳下腺の加齢変化における脂肪酸の取り込み、および耳下腺細胞に取り込まれた脂肪酸の役割について検討を進める。