炎症性腸疾患は、重篤な消化器症状により患者の生活の質を下げる慢性疾患であり、副作用の少ない新たな治療法の開発が求められている。我々は過去に、ⅰ)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性腸炎の回復過程にある結腸組織において、エイコサペンタエン酸(EPA)代謝産物である5,6-dihydroxy-8Z,11Z,14Z,17Z-eicosatetraenoic acid(5,6-DiHETE)の濃度が上昇することに加え、ⅱ)この脂質がin vivoとin vitroで血管透過性の亢進を抑制する作用をもつことを報告してきた。しかし、実際にこの脂質が腸炎の病態にどのような影響を与えるかは不明である。本研究では、5,6-DiHETEの経口投与がDSS腸炎の治療に有効か否かを検証した。まず、健常なC57BL/6マウスに150もしくは600 μg/kgの5,6-DiHETEを経口投与し、投与後0.5, 1, 3, 6時間後の血中5,6-DiHETE濃度を質量分析装置で測定した。Vehicle投与マウスの血中5,6-DiHETE濃度は常に低値を維持したが、経口投与により血中5,6-DiHETE濃度は投与濃度依存的に上昇し、時間経過とともに低下していった。マウスに2%DSSを4日間与えたところ、開始4日目から7日目まで体重が減少し、8日目以降は増加に転じて徐々に回復した。このマウスはDSS投与開始3日目から、軟便・水様便・潜血便といった下痢症状を呈し、その症状は6日目以降改善していった。DSS投与14日目の結腸を病理観察したところ、粘膜下組織の浮腫、粘膜の糜爛、顆粒球浸潤、陰窩膿瘍が見られた。このマウスに150もしくは600 μg/kgの5,6-DiHETEを9~14日目に経口投与した結果、vehicle処置と比べて回復期におけるマウスの体重に差はなかったが、下痢の回復が有意に促進された。150 μg/kgの5,6-DiHETEの投与によりDSS処置による結腸の浮腫や糜爛、顆粒球浸潤が抑制され、600 μg/kgの投与ではさらに陰窩膿瘍が抑制された。以上より、5,6-DiHETEの150~600 μg/kgの経口投与はDSS誘発性腸炎からの回復を促進することが分かった。