【背景・目的】八味地黄丸をはじめとする補腎剤は認知症や頻尿等の老化に伴う症状に対して処方されており、抗老化作用を示す漢方薬であると考えられている。一方、補腎剤の抗老化作用について培養細胞モデルを用いて直接的に検証した基礎研究は限られている。本研究の目的は補腎剤の抗老化作用について初代培養細胞モデルを用いて評価することである。
【方法】補腎剤としては八味地黄丸および六味丸を利用した。初代培養細胞モデルとしてはヒト冠動脈内皮細胞 (HCAEC) およびヒト心臓線維芽細胞 (NHCF-V) を利用した。これらの細胞を補腎剤の存在下で培養した後にH2O2で処理することで酸化ストレス誘導性の細胞老化を誘導した。細胞死の評価はMTT法で、DNA損傷応答の評価はgH2AXおよびリン酸化p53 (Ser15) に対する蛍光抗体染色法で行った。
【結果】HCAECを補腎剤 (0.3 mg/mL) の存在下で培養 (2週間) した後にH2O2処理(100 µM、1時間)を行ったところ、H2O2による細胞死を補腎剤が強く抑制した。細胞死抑制作用が強いため細胞老化に対する作用は評価できなかった。一方、NHCF-Vを補腎剤存在下で培養した後、同様にH2O2処理を行なったが細胞死は抑制されなかった。また、H2O2処理後のgH2AXおよびリン酸化p53陽性細胞の割合はどちらの細胞においても補腎剤により減少した。
【考察】本研究では当初、補腎剤が酸化ストレス誘導性の細胞老化に対して与える影響を評価しようと試みたが、想定外に補腎剤による強い細胞死抑制作用を確認した。補腎剤による細胞死抑制作用はHCAECでは認めたもののNHCF-Vでは認めず、細胞種特異的な作用であると示唆される。細胞死抑制作用のメカニズムとして、酸化ストレス後のDNA損傷応答を評価したが、DNA損傷応答を抑制する作用はHCAECでもNHCF-Vでも認めたことから、補腎剤によるDNA損傷応答抑制は直接的には細胞死抑制作用と関連していない可能性が示唆された。
【結語】補腎剤は酸化ストレスに伴う内皮細胞の細胞死を強く抑制し、DNA損傷応答を抑制した。これらのメカニズムが補腎剤の抗老化作用に関連している可能性がある。