【背景】NMDA受容体拮抗薬memantineは、コリンエステラーゼ阻害薬と比較し、忍容性の高いアルツハイマー型認知症治療薬として広く用いられている。一方、徐脈、高血圧、心筋梗塞および薬物性QT延長症候群といった心血管系有害事象がmemantineを投与された患者で報告されている。しかしながら、memantineの投与とこれら心血管系有害事象の直接的な因果関係の有無は明らかとなっていない。そこで、これら心血管系有害事象の発生機序を解明するため、ヒトにおける薬物の心血管系への作用を推定可能なハロセン麻酔犬を用いてreverse-translational研究を実施した。
【方法】体重約10 kgのビーグル犬を1% halothaneで麻酔維持し、臨床有効血中濃度の約0.1、1および10倍の血中濃度を達成すると推定される用量として、0.01、0.1および1 mg/kg/10minのmemantine hydrochlorideを累積的に静脈内投与し、心血行動態および電気生理学指標を測定した(n=4)。
【結果】低用量から高用量のmemantineは平均血圧および左室収縮力を増加させたが、心拍数、心拍出量、末梢血管抵抗、左室拡張末期圧には有意な変化を示さなかった。また、低用量から高用量のmemantineは房室伝導を促進させたが、心室内伝導を遅延させた。さらに、memantineは高用量においてのみ心房内伝導を遅延させた。一方、memantineはST部分、再分極時間および心室有効不応期を有意に変化させなかった。
【考察】Memantineは心房および心室内伝導を遅延させたことから、INa抑制作用を介した洞結節および心室伝導障害が臨床で報告された徐脈の発生に寄与する可能性がある。また、memantineは陽性変力・変伝導作用とともに血圧上昇作用を示したことから、交感神経緊張亢進作用を有し、種々の心血管系有害作用に関与すると推測される。一方、memantineの投与によりST変化および再分極時間延長は認められなかったことから、memantine単独での心筋虚血および薬物性QT延長症候群の誘発リスクは低いことが示された。

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