【目的】動脈を流れる血液は心ポンプ機能に加えて動脈弾性によるWindkessel効果を通じて効果的に末梢臓器を灌流する。循環血液量に増減が生じるとこれらポンプ機能の変化に応じて末梢循環動態が変動するが、循環血液量の変化が動脈弾性能に与える影響を経時的に観察した情報は少ない。本研究では、動脈弾性の指標としてstiffness parameter β法に基づき算出された値を用い、人工膠質液製剤ヘスパンダーの血管内投与による循環血液量の増加が血管弾性指標(β値)に与える影響を検討した。同時に、末梢循環動態の変化を観察し、動脈弾性の生理機能に対する調節機構について考察した。
【方法】イソフルラン麻酔下でNZWウサギの血圧(上腕動脈、脛骨動脈、総腸骨動脈起始部、中心静脈)、総頸動脈血流量、大腿動脈血流量、心電図および心音図を記録し、大動脈領域と大腿動脈領域の各々の動脈血管のβ値(=ln(Psystolic/Pdiastolic)/(Psystolic-Pdiastolic)・PWV2)を経時的に計測した。ヘスパンダー(1, 2, 5, 10 mL/min)を10分間で静脈内投与し、各指標の変化を観察した(n=6)。さらに、自律神経節遮断薬ヘキサメトニウム 100 mg/kg 投与下でヘスパンダーの作用を同様に検討した(n=6)。
【結果】ヘスパンダーの投与により血圧、中心静脈圧、総頸動脈血流量および大腿動脈血流量が容量依存的に増加した。ヘキサメトニウム非存在下では、大動脈領域のβ値は1および2 mL/minの投与時に低下し、それ以上の投与量では有意な変化を認めなかった。大腿動脈領域のβ値は1, 2, 5mL/minでは有意な変化を認めず、10 mL/minで上昇傾向を認めた。一方、ヘキサメトニウム存在下では、ヘスパンダーにより同程度の血圧上昇が観察され、大動脈領域で見られたヘスパンダーの投与によるβ値の減少反応が増強され、大腿動脈領域のβ値は有意な上昇を示した。このとき、ヘスパンダーの投与による大腿動脈血流量の増加反応はヘキサメトニウム非存在下に比べ増強された。
【結論】循環血液量の増加は大動脈領域の硬さを低下させるが、大腿動脈領域の硬さにほとんど影響を与えず、血管部位により特異的な応答を示すことが確認された。ヘキサメトニウムを用いた検討により、自律神経による血管平滑筋の緊張緩和は大動脈領域では血管の硬さを低下させる方向に、大腿動脈領域では血管の硬さを上昇させる方向に作用し、血管領域により異なる応答性の存在が明らかとなった。

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