【目的】心臓は、高血圧や心筋梗塞などのストレスが持続的に加わると、心機能の低下した心不全へと至る。この過程で心筋細胞が肥大することが明らかになっているため、この心筋細胞肥大を抑制することが心不全の予防や治療につながると期待されている。当研究室では柑橘類果皮成分Nobiletinが心筋細胞肥大を抑制すること、Nobiletinの標的因子として新たにNobiletin Binding Protein1 (NBP1)を同定し、NBP1がNobiletinの心筋細胞肥大の抑制に必須であることを見出した。しかし、NBP1がどのように心筋細胞肥大を抑制しているのかは不明である。そこで、本研究では心筋核内で肥大応答を制御する主要なタンパク質の一つであるp300に着目し、NBP1の心筋細胞肥大抑制メカニズムの解析を目的とした。
【方法】HEK293T細胞にp300を過剰発現させLC-MS/MS解析を行うことでp300の翻訳後修飾部位を同定した。同定した翻訳後修飾部位において、p300の1568番目のリジン残基をアルギニン残基に変異させた (K1568R) 変異体でレポーターアッセイ、翻訳後修飾をミミックした (K1568m) 変異体を用いてHEK293T細胞でレポーターアッセイ、さらに心筋細胞で蛍光免疫染色を行った。
【結果】p300の翻訳後修飾部位は1568番目のリジン残基が受けていた。p300-K1568R変異体は野生型p300と比較して肥大反応遺伝子であるANFやET-1プロモーターの亢進が消失していた。NBP1は野生型p300によって増加するANFやET-1プロモーターの活性を有意に抑制したが、p300-K1568m変異体を共発現させるとNBP1の抑制能が消失した。p300-K1568mによって引き起こされる心筋細胞肥大やANFやET-1のプロモーター活性の亢進はNobiletin処理で抑制しなかった。
【考察】NBP1はp300の1568番目のリジン残基を翻訳後脱修飾し、p300のHAT活性を減少させることで、心筋細胞肥大を抑制している可能性が示唆された。今後、さらにp300とNBP1の関係をより詳細に検討していくことでNobiletinによる心肥大抑制メカニズムの解明につながることが期待される。