知覚神経の活動は、痛みシグナルの伝達に関与するだけでなく、末梢免疫細胞の活性制御にも関わると考えられているものの、その詳細なメカニズムはほとんど明らにされていない。そこで本研究では、薬理遺伝学的手法に従い、人工的に疼痛刺激を付加した際の末梢免疫細胞への影響について検討した。まず、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、遺伝子改変型ヒトムスカリン M3 受容体 (Gq-coupled human muscarinic M3 DREADD; hM3Dq) を C57BL/6J マウスの右後肢坐骨神経に微量注入することで、坐骨神経に存在する知覚神経のうち主に C 線維に hM3Dq の発現が誘導されることを確認した。このマウスにおいて、hM3Dq の特異的リガンドである clozapine N-oxide (CNO) を投与することで痛覚過敏を惹起させることが明らかとなった。このように作製したモデルマウスを用いて、CNO の連続投与による人工的な知覚神経の活性化が脾臓内免疫細胞へ与える影響について fluorescence-activated cell sorting を用いた細胞分離法に従って検討した。その結果、知覚神経刺激を付加した hM3Dq 発現群においてコントロール群と比較して natural killer (NK) 細胞内で、標的細胞のアポトーシス誘導に重要な perforin ならびに granzyme B の mRNA 発現量の有意な減少が確認された。しかしながら、この条件では、坐骨神経に存在するC 線維以外の感覚神経の神経活動も活性化している可能性が考えられる。そこで、C線維のマーカーである Transient Receptor Potential Vanilloid 1 (Trpv1) 特異的に Cre 酵素を発現するトランスジェニックマウスを用いて、Cre 酵素存在下でのみ hM3Dq の発現誘導が可能となるアデノ随伴ウイルスベクターを右後肢坐骨神経に微量注入することで C 線維特異的に知覚神経活動を活性化させることの可能なモデルマウスを作製した。このように作製したモデルマウスを用いて、C 線維特異的に知覚神経活動を活性化させた際の脾臓リンパ球の免疫変容について現在解析している。本研究により、痛みを伴う各種疾患における免疫機能低下機構の解明が期待される。

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