【背景・目的】骨組織は、骨形成と骨吸収のバランスにより恒常性が維持されている。前骨芽細胞の細胞増殖・分化は骨芽細胞の成熟において重要な役割を果たしており、骨芽細胞分化障害は骨代謝性疾患の原因となると考えられている。内向き整流性K+チャネル(Kir2.1)は、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を調節することにより、骨芽細胞の分化に関与することが報告されている。さらに、Panx3やCx43などのヘミチャネルから放出されたATPは、パラクライン/オートクラインに作用することで骨芽細胞分化を促進する。本研究の目的はKir2.1を介した膜電位制御によるヘミチャネルからのATP放出制御と骨芽細胞に機能発現するP2X受容体との機能連関を解明することで、骨芽細胞分化におけるKir2.1を介したATPシグナルの重要性を明らかにすることである。
【結果・考察】骨芽細胞分化を誘導したマウス前骨芽細胞株MC3T3-E1において、Kir2.1阻害薬(ML133)およびヘミチャネル阻害薬(Carbenoxolone)は骨芽細胞分化マーカーの発現を抑制した。骨芽細胞分化に伴うATP放出に対するKir2.1阻害の作用を検討したところ、ML133投与群によりATP放出量が有意に減少した。また、MC3T3-E1細胞におけるATP誘導性[Ca2+]i上昇は、Kir2.1阻害薬により減弱した。ATP刺激による骨芽細胞分化への影響を検討したところ、ATP刺激により発現亢進した骨芽細胞分化マーカーは、P2X4阻害薬(5-BDBD)の処置により有意に発現が抑制された。さらに、マウス胎児中足骨を用いた軟骨内骨化モデルにおいて、Kir2.1阻害薬、ヘミチャネル阻害薬、P2X4阻害薬は、いずれも軟骨内骨化を有意に抑制した。以上の結果より、Kir2.1は骨芽細胞からのATP放出を亢進してP2X4受容体を介したCa2+流入を促進することで骨芽細胞分化を誘導する可能性が示された。