【背景・目的】ABCA7タンパク質は脳及び免疫系の組織で特異的に発現しており、アルツハイマー病の原因遺伝子の一つであると報告されている。また、脳の神経細胞やミクログリアの細胞内情報伝達系タンパク質のリン酸化を制御し、アミロイドβタンパク質蓄積に関連しているとの報告もある。一方で、免疫系の組織での生理学的役割は未だ明らかとなっていない。今回、免疫系細胞の一つである肥満細胞における細胞内情報伝達系へのABCA7の影響を検討し、肥満細胞でのABCA7の役割を明らかにすることとした 。
【方法】野生型C57BL/6マウス及びABCA7遺伝子欠損C57BL/6マウスから得た骨髄細胞をIL-3存在下で培養し、各骨髄由来肥満細胞(WT、A7KO)を作成した。これら各肥満細胞をIgE抗体で24 h感作後、抗原抗体反応を惹起し、0.5, 3, 10分後に反応を停止させ、細胞内情報伝達に関わるSyk, Gab2, Akt, p38, PLCγ2のリン酸化をWestern blot法を用いて検出した。また、各肥満細胞におけるFcεRI及びc-kitの発現量をフローサイトメトリー法で検討した。さらに、各肥満細胞をIgE抗体で24 h感作し、抗原抗体反応を惹起30分後の上清と細胞内のβ-hexosaminidase活性を測定し、脱顆粒率を測定した。
【結果・考察】肥満細胞の抗原抗体反応は、FcεRIに結合したIgEと抗原との架橋により始まり、SykやPLCγ2, Gab2, Akt, p38のリン酸化を経て脱顆粒やサイトカイン産生を引き起こす。WTのSyk, PLCγ2, Gab2は0.5, 3分でリン酸化を認めた。さらに、WTのAkt, p38は3, 10分でリン酸化を認めた。一方、A7KOのSyk, PLCγ2はWTと同様の経時的なリン酸化を認めたが、Gab2, Akt, p38は経時的なリン酸化を認めなかった。また、A7KOにおけるFcεRIの発現量はWTと同程度であった。A7KOの抗原抗体反応による脱顆粒率はWTと比較して半分程度に低下した。したがって、ABCA7は肥満細胞の抗原抗体反応による脱顆粒の細胞内情報伝達系を制御する役割を担っている可能性が示唆された。また、抗原抗体反応により惹起されるサイトカイン産生におけるWTとA7KOの相違についても報告する予定である。