【背景と目的】過去に我々は,還元糖とアミノ基を有する分子が非酵素的に結合することによって生じる分子群である終末糖化産物(AGEs)の作用を解析するなかで,AGEsと結合する新規分子としてリボソーム構成分子のひとつであるRPL9を見出した.これまでにAGEsは,細胞の損傷に伴い細胞外に放出され,炎症反応を引き起こすダメージ関連分子パターン(DAMPs)と総称される分子のひとつであるHMGB1との相互作用を介して相乗的に炎症反応を促進することを見出している.このことから,新たに見出したAGEs結合分子であるRPL9もまた,DAMPsとして作用する可能性が考えられた.そこで本研究において我々は,RPL9が新規DAMPsである可能性を検討することを目的に以下の解析を行った.
【方法】LPSの投与により作製した炎症病態マウスと非投与マウスにおける血清中のRPL9のタンパク質量の変化をHMGB1と比較した.タグ配列を付加したリコンビナントRPL9とHigh mobility group box-1(HMGB1)の発現系を構築し,タグ配列を用いたアフィニティー精製によりリコンビナント分子を調製した.これらのリコンビナント分子をRAW264.7細胞に与え,細胞応答の変化を検討した.
【結果と考察】HMGB1は炎症病態下において細胞から放出され,血清中に分布することが知られている.本研究において作製した炎症病態マウスの血清中において,RPL9はHMGB1と同様に増加することが示された.この結果は,生体内においてRPL9がDAMPsと同様の挙動を示すことを示唆している.一方で,RPL9は,HMGB1とは異なり,細胞に炎症反応を誘導する作用をもたないことが示された.さらに,RPL9をHMGB1と同時に細胞に与えると,HMGB1により誘導される炎症反応が有意に抑制されることが示された.これらの結果は,RPL9がDAMPsと同様の挙動を示しながら,DAMPsの作用を抑制する作用を持った抑制性DAMPsである可能性を示唆している.