放射線を用いた診断・治療の発展により、医療被ばくの機会が増加している。胎児の器官形成期における被ばくは、先天異常の発生と密接に関係するため特に注意が必要である。放射線防護薬の開発は、医療における安全な放射線利用に向けた重要なアプローチの一つであると考えられる。本研究では、ゼブラフィッシュの放射線障害に対する葉酸の保護作用機構解析を試みた。ゼブラフィッシュ仔魚へのX線照射による下顎形成への影響をアルシアンブルー染色で解析したところ、受精36時間後に8GyのX線を照射することで著明に下顎形成が傷害されることを見出した。また、葉酸(200 microM)をX線照射の1時間前から投与することにより、X線照射による下顎形成障害が有意に抑制されることを見出した。この放射線障害に対する葉酸の保護作用機構の解明を目的としてRNA-Seqを実施し、X線照射により障害され、葉酸投与により回復する遺伝子発現変化を同定した。現在、これらの遺伝子発現変化が関与するシグナル経路と、放射線障害に対する葉酸の保護作用機構との関連性について解析を進めている。