【目的】脂肪細胞分化の研究では、マウス由来線維芽細胞(3T3-L1細胞)にイソブチルメチルキサンチン、インスリン、デキサメタゾンの3剤処理(MIX処理)を行い成熟脂肪細胞へ分化誘導するモデルが汎用されている。脂肪細胞分化におけるグルココルチコイド受容体の役割を明らかにするために行った予備的実験において、グルココルチコイド受容体拮抗薬RU486が、MIX処理よりも小さな脂肪滴を有する脂肪細胞への分化を誘導することを見出した。本研究は、DNAマイクロアレイ解析によりRU486誘導脂肪細胞の遺伝子発現特性を明らかにする。
【方法】MIX処理またはRU486処理を行い5日目の3T3-L1細胞(MIX群およびRU群)、および無処理の3T3-L1細胞(未処理群)からRNAを抽出し、Affymetrix社製Clariom_S_Mouse DNAチップを用いてマイクロアレイ解析を行った。マウス精巣上体および鼠径部脂肪組織のマイクロアレイデータを米国国立衛生研究所のGEO Data Setから入手し、Transcriptome Analysis Console 4.0.2 (Thermo Fischer Scientific) とMetascape(NIH)を用いて解析した。
【結果】未処理群、MIX群、RU群のいずれも精巣上体または鼠径部脂肪組織と第一主成分は乖離していた。一方、RU群は、精巣上体脂肪組織と第二主成分で、鼠径部脂肪組織と第三主成分で近似していた。未処理群およびMIX群は、いずれの主成分において精巣上体とも鼠径部脂肪組織とも乖離していた。精巣上体脂肪組織の異なる3つのデータセットとRU群との発現パターン解析から得られた62種類の共通遺伝子についてGene Ontology解析を行った。その結果、DNAの複製に関与する生物学的プロセスがもっとも高いEnrichment scoreとして検出された。
【結論】RU処理による誘導された3T3-L1細胞由来脂肪細胞は、MIX処理による分化誘導に比べて生体の脂肪組織と類似した遺伝子発現特性を示した。RU486単独処理は、従来のMIX処理と比較して、より生体の脂肪細胞に近似する脂肪細胞を誘導する新しい方法であることが示唆された。