パルミトイル化修飾は脂質であるパルミチン酸がタンパク質のシステイン残基のチオール基に付加される可逆的な翻訳後修飾で、細胞内で様々なタンパク質の動態を変化させる。我々は、パルミトイル化修飾阻害薬である2-bromopalmitate (2-BP) が色素合成細胞であるメラノサイトを含む三次元培養皮膚モデルにて、メラニン色素産生を促進し、肌を黒化する現象を見出した。2-BP処置したメラノサイトでは、色素合成酵素であるチロシナーゼの発現量が有意に増加し、これはメラニン量増加の一因であると考えた。そこで、チロシナーゼにおけるパルミトイル修飾を検討した結果、Cys500がパルミトイル化修飾を受けることを見出した。チロシナーゼは2-BP処置によるパルミトイル化修飾阻害、または、非パルミトイル化修飾変異(C500A)の導入により、タンパク質分解が低下し、安定性が増加した。そこで、チロシナーゼのパルミトイル化修飾に関わるパルミトイル化修飾酵素DHHCタンパク質をスクリーニングし、DHHC2,3,15の関与が判明した。メラノサイトにおいて、これらのDHHCタンパク質のノックダウンは、2-BP処置と同様にメラニン産生を増加させ、逆にこれらDHHCタンパク質の恒常的発現細胞では、メラニン色素の産生は減少した。チロシナーゼは、メラノサイトにおいてDHHC3とは小胞体とゴルジ体で,DHHC15とは主にゴルジ体にて共局在した。また、DHHC2とはメラニン色素を合成するメラノソーム上での共局在が観察された。これらの結果から、DHHCタンパク質、特に、DHHC2によるCys500のパルミトイル化修飾がチロシナーゼのメラニン合成酵素の機能を制御し、メラニン合成量の調節を行うことが明らかとなった。