Superoxide dismutase 1 (SOD1)は活性酸素として最初に生じるスーパーオキシドの消去を担う抗酸化酵素である。SOD1遺伝子を欠損したマウスは一見すると正常で、貧血や皮膚の炎症・創傷遅延、脂質代謝異常を引き起こすものの、いずれの表現型も比較的緩徐である。ところが、このSOD1欠損マウスの胎児から線維芽細胞を採取すると、通常培養環境下(約21%酸素)においてp53依存的な増殖抑制および細胞死が生じる。この時、抗酸化物質アスコルビン酸(ビタミンC)を培地中に添加することによってSOD1欠損線維芽細胞の細胞死が顕著に抑制されることが分かった。マウスをはじめとする多くの実験動物はグルコースを出発材料としてアスコルビン酸を合成することができる。Aldo-keto reductase 1a (Akr1a) はアスコルビン酸合成反応を触媒する重要な酵素であり、Akr1a遺伝子を欠損したマウスはアスコルビン酸合成能が著しく低下する。Akr1a単独欠損マウスはアスコルビン酸を投与しなくとも1年程度は生存し、酸化ストレスが直接的な原因と考えられる障害は顕著ではない。そこで本研究では、SOD1とAkr1aを両方とも欠損したマウスを樹立し、生体内でのスーパーオキシドの毒性軽減におけるアスコルビン酸の役割について検証を試みた。樹立したSOD1・Akr1a二重欠損マウスは非常に病的な症状を示し、その多くが生後間もなく死亡したが、アスコルビン酸水(1.5 g/L)を自由摂取させることにより、一部のマウスは約1年程度延命した。一方、成獣でもアスコルビン酸の投与を休止すると、週齢や性別に関わらず、約2週間程度で死亡した。そこで、この死因を明らかにするために臓器の病理組織学的解析を行ったところ、投与休止マウスでは肺の気管支粘膜上皮の細胞の著明な腫大、リンパ球の浸潤が認められた。また、肺胞洗浄液中には炎症細胞数の増加や炎症性サイトカインの産生増加が認められた。以上の結果から、SOD1・Akr1a二重欠損マウスではアスコルビン酸量の減少によりスーパーオキシドの肺毒性が顕在化したことが明らかになった。各臓器の中でもとりわけ肺の酸化障害からの保護におけるアスコルビン酸の重要性が示され、アスコルビン酸によるスーパーオキシドの消去がSOD1欠損マウスの生命維持に必須であることが示唆された。