近年、降圧剤によって血圧のコントロールは可能になったが、未だ治療抵抗性高血圧も存在し、本態性高血圧はその発症機序さえ不明である。我々は、5/6腎摘ラットの腎障害早期において、腎尿濃縮能低下による尿量増加が惹起され、その体液喪失を代償するために皮膚血管収縮に起因する経皮水分蒸散の抑制が生じ、腎性高血圧の一因になることを報告した。本研究では、本態性高血圧モデルの血圧上昇においても腎尿濃縮能低下や皮膚の体液保持機構が関与する可能性を検討した。先ず、高血圧自然発症ラット(SHR)と対照のWistar Kyoto(WKY)を用いて代謝ケージでの測定を行ったところ、SHRではWKYに比して有意な尿量の増加と尿浸透圧の低下が認められ、飲水量は増加傾向を示した。一方、尿中浸透圧物質排泄量は両群間に有意差はみられなかった。よって、SHRでは腎尿濃縮能低下に伴う尿量増加により、体液喪失が生じていることが示唆された。また、SHRではWKYに比して有意な経皮水分蒸散量の減少と血圧上昇が認められた。故に、SHRの皮膚は血管収縮により皮膚の血管面積を減少させることで皮膚からの体液喪失を抑制している可能性が考えられた。また、皮膚の体液成分を測定したところSHRでは皮膚にナトリウムとカリウムの有意な蓄積が認められた。このことから、SHRでは腎尿濃縮能低下に対する代償機構として皮膚血管を収縮させると同時に皮膚に浸透圧物質を蓄積させることで経皮水分蒸散を抑制し、結果として血圧上昇が生じる可能性が考えられた。皮膚機能や腎尿濃縮能の改善が本態性高血圧の新たな治療標的になりうることが考えられた。