[目的] ミトコンドリア呼吸鎖複合体I(複合体I)のアクセサリー分子であるp13は、II型糖尿病やパーキンソン病との関連が示唆されているが、内因性のp13の生理学的、病理学的意義については未だ十分に明らかになっていない。当研究室では、CRISPR/Cas9システムにより作製したp13の全身欠損性マウスについて、本マウスの多くが生後早期に致死性を示すこと、脂肪や精巣などの形成が抑制されることを見出している。本研究では同マウスの呼吸器組織に注目した解析を行った。[方法] 7週齢のp13のホモ欠損マウス(p13-/-)と同腹の野生型マウス(p13+/+)から左肺葉を摘出し、パラフィン切片を作製したあと、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色等による解析を行った。またpulmoDBやGEO Profilesを用いたin silico解析を行い、肺組織においてp13の発現量変化が生ずる条件を検索した。 [結果] p13-/-肺では、肺胞腔の拡大が認められるとともに、その構造が単純化している傾向が認められた。そこでこれらを定量的に解析したところ、p13-/-肺はp13+/+肺と比較して、平均肺胞壁間距離が有意に増加しており、定量的にも肺胞腔が拡大していることが示された。一方でp13のmRNA発現は、発生期の肺胞形成時に重要な役割を果たす肺胞II型上皮細胞とその前駆細胞との比較において前者で増加すること、人工呼吸器誘発性の肺障害モデルにおいて著しく減少をすること、が示された。[考察] p13は肺胞の正常な形成に不可欠であることが示された。肺胞腔の拡大や肺胞構造の単純化といった構造変化は、肺気腫などの慢性肺疾患において高頻度に認められる。よってp13 mRNAの発現変化の知見も併せ、今回、呼吸器の発生や病態形成におけるp13の重要性が示されたと考える。