PKC/MAPKシグナル伝達経路は高度に保存されたシグナル伝達経路であり、その過剰な活性化は発がんと密接に関わる。我々はPKC/Pck2過剰発現(OP)がMAPKの活性化と細胞増殖抑制を誘導することを利用した遺伝学的解析により、膜をもたないオルガネラであるストレス顆粒(SG)がPKC/Pck2を取り込むことによりMAPKシグナルの活性化を抑制することを見出した。SGは翻訳抑制の制御だけでなく、シグナル伝達制御の場としても注目される他、がんや神経変性疾患と密接に関わることから、新たな創薬標的としての可能性が秘められている。さらに、我々はストレス顆粒の制御因子であるヒトDDX3の分裂酵母ホモログDed1がPKC/Pck2過剰発現(OP)に伴う細胞増殖抑制効果を回復することを見出した。そこで本学会では、PKC/MAPKを介する細胞増殖とDed1を介したSG形成/相分離制御がいかに関わるのかを解析した。
初めに、Pck2 OPがSG形成を誘導するのかを調べるため、SGマーカーであるPabpやDed1を用いて検証した。Pck2 OPによってPck2やPabpはそれぞれ凝集体を形成し共局在を示したが、興味深いことに、Ded1の凝集体形成は認められなかった。この結果は、Pck2 OPによって誘導されるSGは「不完全なSG」である可能性を示唆する。さらに、Pck2 OP細胞にさらにDed1 を過剰発現することで、Pck2のSG移行が促進されたことから、Ded1 OPはPck2のSG移行を促進することにより、Pck2 OP依存的な細胞増殖抑制から回復する可能性を示唆した。次に、SG形成に必要なDed1の領域や機能を同定するため、SG形成に重要な低複雑性領域(LCR)を欠損させたDed1ΔLCRやRNAヘリカーゼ活性を低下させたDed1DAADを用いてSG形成を検証した。Ded1WT OP細胞と比較して、Ded1ΔLCRやDed1DAADのOP細胞では、Ded1あるいはPabpの凝集が形成されず、Pck2のSG移行が顕著に低下したことから、Ded1のLCR、およびRNAヘリカーゼ活性がSG形成やPck2のSG移行に重要な役割を担っていることが示唆された。本発表では、PKC/MAPKシグナルの過剰な活性化に対するDed1やSGを介した抑制メカニズムについて議論する。