パーキンソン病やLewy小体型認知症に代表されるLewy小体病はαシヌクレイン(α-Syn)の細胞内凝集を特徴とする。従ってαシヌクレインの凝集メカニズムを明らかにすることはこれらの疾患の病態を理解し、治療法を開発するうえで重要な課題である。我々は、強力な遺伝学を駆使することのできる分裂酵母モデル生物を用いることにより、α-Synの細胞内凝集機構を解析してきた。α-SynをGFP融合タンパク質として、細胞内で発現、可視化した結果、α- Synは低発現時には主に細胞の成長端(細胞膜)および中隔に局在するのに対して、高発現時には凝集体を形成し、その凝集体は膜脂質成分を染色するFM4-64で標識されることを明らかにした。さらに、α- Synが細胞機能に与える影響を解析した結果、α-Synの過剰発現はエキソサイトーシスや液胞融合などの細胞内輸送のプロセスに障害をもたらし、細胞毒性を示すことを明らかにした。次にα-Synの凝集メカニズムを解析する目的で、α-Synの140アミノ酸のうち、家族性パーキンソン病の症例において点突然変異の報告のある30番目のアラニンをプロリンに置換したα-SynA30Pを作成した。この変異を導入したα-SynA30Pで細胞膜に局在せず、細胞毒性を示さないが、高発現時にわずかに凝集体を形成することが分かった。さらに、この変異に加えてタンパク質の高次構造解析において、エネルギー的に安定な領域に存在する56番目、76番目のアラニンをプロリンに置換した3重変異体 (α-SynPPP)を作成した。興味深いことにこれらの点変異を導入したα-SynPPPは細胞膜への局在がほとんど消失しただけでなく、高発現状態においても細胞内凝集体の形成が顕著に阻害され、かつ細胞増殖抑制効果が失われていることが明らかになった。この結果からα-Synの凝集体形成には、56番目や76番目のアミノ酸が必要である可能性が考えられた。さらに、細胞膜に結合することにより凝集体形成が増強され細胞毒性を示すようになることが示唆された。