【背景・目的】糖尿病性腎臓病は新規透析導入の最大原疾患であり、現在行われているレニン・アンジオテンシン系阻害薬による治療下でも、未だ満足な効果が得られていない。Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬は2型糖尿病患者に対して血糖値を下げる目的で用いられるが、近年、糖尿病性腎臓病モデル動物において腎保護効果を示すことが報告されている。そこで今回我々は、糸球体濾過において重要な役割を担っている糸球体足細胞(ポドサイト)に焦点を当て、GLP-1受容体作動薬がポドサイトに対してどのような効果を示すかについて検討した。
【方法】培養不死化温度感受性マウス糸球体上皮細胞の細胞分裂を停止し、ポドサイトに分化させた。通常血糖群(5 mM glucose)と高血糖負荷(25 mM glucose)した群とをそれぞれNG群、HG群とした。治療薬投与群としてGLP-1受容体作動薬であるExendin-4 (10 nM)を通常血糖に投与した群、高血糖に投与した群を各々NE 群、HE 群とし各群7日間培養を行った。さらにAkt経路を阻害するPI3K阻害剤 Wortmannin(100 nM)をExendin-4と共投与する(HE+Wort)群を設定した。細胞障害は培養上清のLDH活性で測定し、アポトーシスは核の形態変化とカスパーゼ3活性で検討した。ポドサイト構成因子であるWilms' tumor-1(WT-1)、synaptopodin のmRNA発現はreal time PCR法で測定した。細胞骨格に対する影響は蛍光ファイロジンによるF-actin染色で検討した。Exendin-4による細胞保護機序を検討するため、Aktのリン酸化及びbcl2、baxタンパク発現をWestern blotで検討した。
【結果】NG群に比しHG群では、核の凝集・断片化を認め、カスパーゼ3活性の増加も伴っており、アポトーシスの誘導が認められた。さらに、HG群ではポドサイトの構成因子であるWT-1およびsynaptopodin発現の減少が認められ、細胞骨格であるF-actinの形態に損傷が認められた。HE群ではこれらのポドサイト障害が抑制されており、抗アポトーシスに働くことが知られているAktのリン酸化とbcl2タンパクの保持を伴っていた。また、アポトーシス誘導に働くbaxタンパクは抑制傾向であった。さらにExendin-4による足細胞アポトーシス抑制効果はHE+Wort群で消失した。
【結語】GLP-1 受容体作動薬は高血糖由来ポドサイト障害を軽減し、その作用機序にAktのリン酸化保持やbcl-2ファミリータンパクの調整が関与し、apoptosisを抑制する可能性が示唆された。