背景と目的
炎症性腸疾患(IBD)は難病に指定され、遺伝や免疫的因子の他に食事や腸内細菌などの多因子が発症や増悪に関与し、また、高い発癌リスクを伴う。IBDは母乳で育てられた時期が長い人ほど発症リスクが顕著に低いことが知られている。乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスがIBD治療へ臨床応用されているが、母乳由来プロバイオティクスの応用の報告はない。本研究では、母乳由来プロバイオティクスProbio-M9によるIBD予防・治療効果とそのメカニズムを明らかにする。
方法
雌マウスにazoxymethane (AOM:12 mg/kg BW i.p.)を前処置後、dextran sulphate sodium (DSS7日間2%DSS 自由飲水+7日間通常飲水)の投与を3セット行い、炎症性大腸癌モデルを作製した。母乳由来プロバイオティクスProbio-M9(菌量は 2x109個/1日/匹)投与を3セット行った。便中腸内細菌叢のメタゲノム解析を行い、多様性解析・主座標分析(PCoA)、腸内細菌属・種分析を行った。AOM投与後20週に大腸腫瘍数解析、大腸病理組織学解析を行った。 
結果
Vehicle群と比較して、AOM+DSS群では有意な脾臓重量、糞便スコア・病理スコア・腫瘍数・線維化・非腫瘍領域漿膜下層CD68陽性マクロファージの増加、腸内細菌の構造変化が観察された。Probio-M9投与により、これらの指標は改善し、さらに細菌叢の多様性の増加、腸炎を増悪する細菌の減少が観察された。
結論
母乳由来Probio-M9投与は腸内細菌叢の多様性や構造を改善し、炎症性大腸発癌に対し抑制的に働くことが示唆された。