冠攣縮性狭心症では発作的に冠動脈が過収縮を起こし、心筋への血液供給が減少することによって胸痛が生じる。狭心症発作の寛解、予防には硝酸薬やカルシウム拮抗薬が使用されるが、これらの薬物では十分に発作を抑制できない場合があり、新たな治療薬の開発が求められている。本研究では、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性化薬(酸化型/アポsGCを優先的に活性化する)が冠攣縮性狭心症の治療薬となり得るのか否かについて検討した。イヌおよびブタの心臓から単離した冠動脈より標本を作製し、マグヌス法に準じて等尺性張力変化を観察した。sGC活性化薬であるBAY 60-2770(10-10 to 10-8 M)の存在下(20 min曝露)では、endothelin-1(3×10-11 to 3×10-8 M)、prostaglandin F(10-8 to 10-5)、5-hydroxytriptamine(10-9 to 10-6 M)によるイヌ冠動脈収縮反応が濃度依存的に抑制された。また、KCl(30 mM)の脱分極性刺激による冠動脈収縮もBAY 60-2770の前処置によって抑制された。BAY 60-2770の作用時間は長いことが知られているため、ウォッシュアウトの影響をみたが(10-9 MのBAY 60-2770に1 hr曝露後、30 minおきに4 hr洗浄)、BAY 60-2770による冠動脈収縮抑制作用はウォッシュアウト後も持続していた。次に、in vitroの冠攣縮モデルとして知られている3, 4-diaminopyridine誘発周期性収縮に対する効果を検証したところ、BAY 60-2770(10-10 to 10-8 M)は濃度依存的に3,4-diaminopyridine(10 mM)によるブタ冠動脈の最大発生張力を減弱し、その収縮周期も延長した。硝酸薬やカルシウム拮抗薬の冠動脈拡張作用は太い血管で強いことが知られているため、sGC活性化薬の弛緩作用にも太い冠動脈(左冠動脈前下行枝:AHA分類 #6)と細い冠動脈(左冠動脈第一対角枝:AHA分類 #9)で差があるのか否かを検証した。Endothelin-1(3×10-9 M)で前収縮させた冠動脈に対するBAY 60-2770(10-12 to 10-7 M)の弛緩作用は太い冠動脈より細い冠動脈で強かった。以上の結果から、sGC活性化薬は抗冠攣縮作用を有しており、冠攣縮性狭心症の治療薬として有用であることが示された。また、細い冠動脈に対しての作用が強いことから、微小血管狭心症にも適応が期待できるかもしれない。