【目的・背景】
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は37個のアミノ酸からなるペプチドであり、カプサイシン感受性の知覚神経に含まれている。CGRPの生理作用として、強力な血管拡張作用、細胞保護効果、マクロファージ浸潤抑制作用など様々な作用が報告されている。しかし、動脈硬化におけるCGRPの役割は未だ不明なままであった。我々は、これまでアポリポプロテインE (ApoE)欠損マウスとCGRP欠損マウスをかけあわせ、ApoE/CGRPダブルノックアウト(DKO)マウスを作製し血清コレステロール値、大動脈の脂質沈着の増加、腹腔内マクロファージの機能亢進と炎症性サイトカインTNFαの増加を報告してきた。そこで本研究ではTNFα阻害薬によりダブルノックアウトマウスの動脈硬化が改善されるかどうか検討をおこなった。また、マウスマクロファージ細胞株であるRaw264.7を用いCGRPがTNFαの発現に影響を及ぼすか検討した。
【方法】
8週齢の雄性ApoE欠損マウスあるいはDKOマウスを用いた。また、TNFα阻害薬として完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤のエタネルセプトを週に1回(5 mg/kg)腹腔内投与を行った。心臓はクリオスタットを用いて薄切片を作り、大動脈起始部の脂質沈着をoil red Oを用いて染色した。また、マウスの大動脈展開標本を作製し同様にoil red Oで染色し脂質沈着を測定した。Raw264.7細胞にCGRP (100 nmol)を添加した。60分後に細胞を回収し、RNAを抽出後、Real time PCRにてTNFαおよびIL-6 mRNA発現量を定量化した。
【結果・考察】
ApoE/CGRP DKOマウスに2週間高脂肪食を与えながらエタネルセプトを週に1回投与した結果、大動脈展開標本において脂質沈着が抑制されていることが確認された。Raw264.7細胞を用いてCGRP投与による炎症性サイトカイン発現量を解析した。その結果、IL-6 mRNA発現量は、有意な変化は見られなかったが、TNFα mRNA発現量がCGRP投与によって有意に減少していた。以上の結果よりCGRPにはTNFαの発現を抑制する作用があり、CGRP欠損による動脈硬化の増悪にはTNFα阻害薬が効果を示すことが示唆された。