【序論】アストロサイトは中枢神経系 (CNS) において最も豊富に存在するグリア細胞であり、神経伝達物質の回収やイオン濃度の調節、血液脳関門の形成などCNSの恒常性維持に寄与している。近年、アストロサイトは病態時の様々な刺激に応答して病態の増悪あるいは抑制に寄与することが明らかになってきた。代表的な炎症性サイトカインであるTNFαとIL1αがアストロサイトを炎症促進性のフェノタイプへと変化させることが報告されたが、それらの刺激を同時に受けた際のサイトカイン変化や制御分子に関しては不明な点が多い。そこで本研究では、これら炎症性サイトカインに対するアストロサイトの応答について、Ca2+シグナリングとの関連に着目して解析した。
【方法】生後0-2日齢のC57BL/6Jマウス新生仔から大脳皮質を摘出し、フラスコに播種してグリア混合培養とした。培養2~4週間後、振とう法によりアストロサイトを単離して再播種し、TNFα (10 ng / mL) または/および IL1α (3 ng /mL) の処置24時間後に遺伝子発現変化、タンパク質産生量変化、細胞内Ca2+濃度変化を測定した。
【結果・考察】TNFαやIL1αを処置したマウス初代培養アストロサイトにおいて、様々な炎症性サイトカインの遺伝子発現量が増加したが、中でもIL6、CXCL1、CXCL2は両サイトカインの共処置により相乗的な増加を示した。また、このときストア作動性Ca2+流入 (SOCE) を担うチャネルであるOrai2の遺伝子発現が相乗的に増加したため、Orai2をノックダウン (KD) してDNAマイクロアレイによる解析を行ったところ、TNFα と IL1αの共処置を受けた際に、プロスタグランジンE2 (PGE2) 産生経路がKD群において亢進していることが示された。リアルタイムPCRおよびELISAによる検討から、KD群ではPGE2合成酵素のひとつであるmPGES1の遺伝子発現およびPGE2産生量が増加していることが明らかとなった。またOrai2遺伝子欠損マウス由来のアストロサイトにおいては、TNFαとIL1αの共処置を受けた際にOrai1の遺伝子発現量、SOCEによるCa2+流入が増加し、COX2およびmPGES1の遺伝子発現量、PGE2産生量も増加していた。以上の結果から、TNFαとIL1αの共刺激によるアストロサイトPGE2産生亢進は、Orai2が関与するメカニズムによって部分的に抑制されていることが示された。