核内タンパクhigh mobility group box 1 (HMGB1) は、マクロファージ (MΦ) などの細胞から分泌され、炎症や痛みを促進する。我々は、種々の抗がん剤により生じる化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN) にHMGB1が関与することを明らかにしているが、paclitaxelとbortezomibによるCIPNに関与するHMGB1はMΦ由来であるのに対し、oxaliplatin (OHP)によるCIPN (OIPN) に関与するHMGB1の主たる由来細胞はMΦではないことを報告している。興味深いことに、血小板は無核であるにも関わらず、細胞内にHMGB1を含有しており、血小板由来HMGB1が血栓症の発症に関与することが報告されている。そこで本研究では、OIPNの発現に血小板由来HMGB1が関与する可能性を検証した。はじめに、ラット血小板多血漿および洗浄血小板をトロンビンで2時間刺激したところ、HMGB1の遊離が認められた。次に、OHPをマウスに5 mg/kgの用量で単回腹腔内投与すると3時間後より1週間以上持続するOIPNが発症したが、1 mg/kg単回投与ではOIPNは発症しなかった。OHP 5 mg/kgの単回腹腔内投与によるOIPNは、抗血小板薬のCOX阻害薬aspirin (ASA) 50 mg/kg とP2Y12阻害薬clopidogrel (CLP) 10 mg/kg の反復併用経口投与により完全に阻止された。マウスに抗血小板抗体(抗CD42b抗体)2 mg/kgを静脈内投与すると、24時間後に血小板数が1/3程度にまで減少し、血漿中HMGB1濃度が2倍近くに増加した。このマウスに単独無効量(1 mg/kg)のOHPを単回投与するとOIPNが誘発された。次に、OHP反復投与によるマウスCIPNモデルを作製するため、OHP 1 mg/kg/2 daysを3回反復腹腔内投与したところ、投与開始5日後からOIPNが認められ、これは抗HMGB1中和抗体 (HAb) 1 mg/kgの反復腹腔内投与の他、抗血小板薬のASA 50 mg/kg、CLP 10 mg/kg、PDE III阻害薬cilostazol 100 mg/kgまたはトロンボキサン合成酵素阻害薬ozagrel 100 mg/kgの反復経口投与によって阻止された。摘脾によりマウスの血小板数は偽手術マウスに比べて倍増することを確認し、OHP 1 mg/kg/2 daysを反復腹腔内投与したところ、偽手術マウスでは投与開始5日後から、摘脾マウスでは初回投与翌日より明らかなOIPNが発症し、これも抗HMGB1中和抗体の反復投与で阻止された。最後に、ラットにおいてOHP 5 mg/kgの反復腹腔内投与により誘発されるOIPNもCLPの反復投与で阻止されることを確認した。以上より、OIPNの発症に血小板由来HMGB1が関与する可能性が示唆された。