【背景・目的】関節軟骨は、軟骨細胞から合成・分泌されるコラーゲンなどの軟骨基質により形成され、スムーズな関節の動きを可能にする。ところが、関節内の慢性的炎症や力学的な過負荷、加齢など複合的な要因により変形性膝関節症(Osteoarthritis;OA)を発症すると、軟骨基質が消失して激しい痛みと運動障害が生じる。これまでに、OAモデル動物由来の軟骨細胞において細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)上昇とOAの進行が関連することが報告されているが、どのようにして[Ca2+]iが上昇するかは不明である。本研究では、マウス初代培養軟骨細胞を用いて、OA時に[Ca2+]iが上昇するメカニズムの解明を目指した。
【方法・結果】C57BL/6マウスより単離した初代培養軟骨細胞において、OA時の滑液中に分泌される主要な炎症性サイトカインであるIL-1β(Interleukin-1β, 10 ng/mL)を処置してOA時の軟骨細胞を模倣した。IL-1β処置した軟骨細胞では、静止時の[Ca2+]iが有意に上昇していた。さらに、電位依存性K+チャネルの一種であるKv1.6の発現および膜電流が減少し、膜電位が脱分極することが明らかになった。L型電位依存性Ca2+チャネル(Voltage-Dependent Ca2+ Channel;VDCC)の阻害薬であるニフェジピンにより、静止時の[Ca2+]iが有意に低下した。また、IL-1βによって誘導される細胞死は、ニフェジピンにより抑制された。
【結論】OA時に観察される[Ca2+]i上昇は、Kv1.6活性の減弱による脱分極とそれによるL型VDCCを介した[Ca2+]i流入によって生じると考えられる。持続的な[Ca2+]i上昇は軟骨細胞の細胞死を誘導して、OAの進行に寄与すると推測される。