(背景・目的)
慢性特発性蕁麻疹(CSU)は明らかな誘因が無く、6週間以上ほぼ毎日膨疹の出現と消失を繰り返す疾患である。膨疹形成機序として、皮膚肥満細胞や好塩基球から放出されるヒスタミンが直接的な原因になっていると考えられているが、その発症機構には不明な点が多く残されている。これまで我々は、外因系血液凝固反応と慢性蕁麻疹の病態に深い関係があることを示してきた。例えば、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)は、CSUの増悪因子であるヒスタミン、VEGF、TNFαやLPS等で同時に刺激すると、細胞膜上の組織因子(TF)が高発現し、外因系血液凝固反応を活性化すること、また、産生された活性化血液凝固因子(FXa、FIIaなど)は血管内皮細胞上のプロテアーゼ受容体、PAR-1、を介して血管透過性を亢進し、膨疹形成に寄与する可能性を示してきた。しかし実際の膨疹形成は真皮内の微小血管で起こると考えられる。そこで本研究では、CSU増悪因子であるヒスタミンやLPSがヒト微小血管内皮細胞のTF発現と、その後の外因系血液凝固反応の活性化を引き起こすか検討した。
(方法)
ヒト正常微小血管内皮細胞として、Human Microvascular Endothelial Cells(HMVEC)を使用した。TFのmRNA、細胞内タンパクと細胞膜タンパク発現は、それぞれqPCR、ウェスタンブロット、フローサイトメトリで検出した。また、TF発現細胞の外因系凝固反応駆動能はACTICHROME® TF kitで測定した。
(結果)
HMVECをヒスタミンとLPS等のCSU増悪因子で同時に刺激すると、HUVECと同様に、相乗的なTF発現がmRNA、タンパクレベルで検出された。さらに相乗的に発現したTFは外因系凝固反応を亢進して、少なくとも活性化凝固因子であるFXaを産生することが明らかとなった。
(考察)
本研究では、正常ヒト微小血管おいても、刺激によりTFの相乗的な発現と外因系凝固反応の活性化が起こることを示した。そのため外因系凝固反応により産生された活性化凝固因子は微小血管に作用して、局所的な血管透過性亢進と膨疹形成に寄与していると考えられる。本研究成果は、未だほとんど解明されていない複雑なCSU病態の一端を解明し新しい治療法の開発につながると考えれる。