【背景・目的】不眠をはじめとする睡眠障害は、がん患者の2人に1人が経験する合併症である。睡眠不足は免疫機能低下による感染症のリスクが高く、抗がん剤治療継続が困難になるケースも存在することから臨床上大きな問題となっている。がん患者が経験する不眠は、主にがんによる痛みや予後に対する不安などが原因であり、睡眠薬の服用により改善すると考えられてきた。しかし、睡眠薬服用によっても十分な睡眠改善効果を認めない症例も多く存在することから、痛みによる物理的要因や不安による心理的要因とは異なる不眠発症メカニズムが存在することが示唆されている。睡眠は、日内変動を司る「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子群によって制御されており、一部の抗がん剤が「時計遺伝子」の発現を変調させることが報告されている。しかしながら、抗がん剤投与により不眠が引き起こされる詳細な「時計遺伝子」変調メカニズムは不明である。そこで、本研究では抗がん剤投与による「時計遺伝子」発現量変化に着目し、不眠発症に寄与する「時計遺伝子」の同定を目的とした。
【方法・結果】神経細胞のモデル細胞であるPC12細胞に対して、Serum shock法を用いて「時計遺伝子」の発現を同調させ、以下の実験に使用した。様々ながん種の化学療法で使用される抗がん剤パクリタキセルをPC12細胞に曝露し、「時計遺伝子」として知られているClock等のmRNA量をreal-time RT-PCR法により測定した。その結果、Clock mRNAの発現変容が確認された。次に、ICR系雄性マウスの尾静脈内にパクリタキセルを反復投与(6mg/kg, i.v. ) して不眠モデルマウスを作製し、以下の実験に使用した。不眠モデルマウスより大脳皮質等をサンプリングし、Clock等のmRNA量をreal-time RT-PCR法により測定した。その結果、 正常マウスと比較して不眠モデルマウスにおいて有意にClock mRNA発現量の変化が認められた。
【考察】パクリタキセルによる不眠発症のメカニズムにはClockが関与していることが示唆された。