我々は、脳損傷(脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー型認知症等)をきっかけに発症する慢性脳疾患の一つ「症候性てんかん」の発症予防の可能性を探っている。これまでの研究から、脳損傷後の潜伏期(てんかん原性)において脳内炎症、血液脳関門透過性亢進、脳浮腫等の脳内変化が進行すること、新規抗てんかん薬レベチラセタム(LEV)投与によりこれら変化が抑制されることを明らかにした。また、マウスミクログリアBV-2細胞を用いた実験より、LEVの新規ターゲットの一つとしてAP-1転写因子Fosl1Fra1)を同定し、LEVがLPS刺激後に起こるFosl1発現誘導を阻害することで、ミクログリアの活性化、及び炎症反応を抑制することを示した。
 本研究では、ピロカルピン誘発重積けいれん(PILO-SE)モデルマウスを作製し、in vivoにおけるLEVとFosl1の関係について解析した。まず、PILO-SEマウスの脳内変化を把握するため、Cap Analysis of Gene Expression(CAGE)を用いて海馬における遺伝子発現変化を非SE誘発群とSE誘発群(SE 6時間、2日後)で比較した。SE誘発群の海馬では、炎症反応に関わるサイトカイン/ケモカイン、血管新生関連遺伝子等の発現上昇がみられ、これらが盛大に変化することで脳内炎症や脳浮腫の進行が起こることが示された。同時に、Fosl1発現も誘導されること、及びこれらの誘導がLEV投与により抑制されることを示した。次に、Fosl1発現細胞を同定するため、FACSAria IIを用いて海馬ミクログリア、アストロサイト、神経細胞、血管内皮細胞を分取し、それぞれの細胞集団におけるFosl1発現を解析した。SE 2日後に発現誘導される海馬Fosl1は、ミクログリアにはほとんど認められず、大部分がアストロサイトに局在していた。また、有意差はなかったものの、LEV投与によるアストロサイトFosl1の抑制傾向がみられたことから、海馬Fosl1はアストロサイト活性化を介して炎症反応を制御している可能性が示唆された。
 症候性てんかん予防は、超高齢社会における大きな課題の一つである。効果的な予防法確立を目指し、LEVのFosl1誘導阻害と炎症抑制の関連性を解析していく予定である。