病的な痛みの分子基盤は脊髄グリア細胞と密接な関わりがあると考えられている。特に活性化ミクログリアは痛みを増悪させると考えられているが、その役割には性差があることを示す報告が近年増加している。本研究では神経障害性疼痛モデルマウスを用い、ミクログリアの性差に及ぼす男性ホルモン(アンドロゲン)の影響を検討した。
坐骨神経傷害モデルマウスの脊髄後角において、雌雄ともにミクログリアの形態的活性化が認められ、またミクログリアマーカーや炎症性因子の発現も顕著に増加していた。ミクログリア枯渇薬であるPLX3397を含む特殊飼料を坐骨神経傷害モデルマウスに与えると、雄では機械的アロディニアが抑制されたが、雌ではそのような抑制効果が認められなかった。またPLX3397によるミクログリアの減少の程度には性差があり、雄と比較して雌では弱いことが示された。このようなミクログリアの性差に及ぼすアンドロゲンの関与を検討するため、精巣を摘出した雄マウスを用いて同様の検討を行ったところ、PLX3397による抗アロディニア効果が消失した。健常マウスにコロニー刺激因子1(CSF1)を脊髄くも膜下腔内投与すると、雄特異的に機械的アロディニアが惹起されるが、精巣摘出マウスではCSF1のアロディニア誘発効果が認められなかった。
上記の結果より、アロディニアに関与するミクログリアの性質は雌雄で異なっており、その差異が痛みの調節機構に大きく関わっていると考えられた。またそれらの性差は、アンドロゲンシグナルによって形成されている可能性が示唆された。現在、アンドロゲンの標的細胞ならびにその下流因子の同定を行っている。