【背景と目的】 セロトニントランスポーター(SERT)の機能は膜輸送によって調節される。我々は、小胞体(ER)ストレスの緩和剤候補としてSERTの膜輸送を促進する薬物を検索し、その中でもケミカルシャペロン活性を持つ薬物に注目してきた。非ステロイド性抗炎症薬であるFlurbiprofenは、ケミカルシャペロン活性を示すことが報告されている。そこで、Flurbiprofenが膜輸送を介したSERTの機能調節に果たす役割について検討した。
【方法】 野生型(WT)SERT、またはミスフォールドタンパク質であるSERTのC末端欠失変異体(SERT∆CT)を一過性に発現させたCOS-7細胞を使用した。SERTのセロトニン取り込み活性、タンパク発現、糖鎖修飾に対するFlurbiprofenの効果を、蛍光基質とトリチウムセロトニンの取り込み測定、western blotting法により検討した。
【結果と考察】WT SERT発現細胞をFlurbiprofen(>0.5 mM)24時間処置すると、不完全糖鎖修飾SERTの発現が減少し、完全糖鎖修飾SERTの発現が増加した。さらに、セロトニンの取り込みも亢進した。これらの結果から、Flurbiprofenは、SERT膜輸送を促進することにより、その機能を調節することが示唆された。Flurbiprofenの鏡像異性体を用いた検討により、FlurbiprofenのSERTに対するこれらの効果は、シクロオキシゲナーゼ阻害を介するものではないことが示された。SERT∆CT 発現細胞に対して、Flurbiprofenは SERT∆CT のタンパク質発現と取り込み活性を低下させ、SERT∆CT 凝集体の形成を阻害した。ERストレスマーカーである 分子シャペロンGRP78/BiP のレベル指標にして、Flurbiprofenが SERT∆CT 誘発性ERストレスを改善できるかどうかを検討した。興味深いことに、Flurbiprofenは ER ストレス条件下でのみ GRP78/BiP の発現を誘導し、定常条件下では誘導しないことがわかった。これらの結果から、フルルビプロフェンは、ケミカルシャペロンとしての機能に加えて、分子シャペロンの誘導剤としても機能している可能性が示唆された。