【背景・目的】母胎環境の異常は、出生児の将来罹患しうる疾患を運命づける。例えば、妊娠期における胎児の低酸素状態は、精神発達障害の発症要因の1つとして考えられている。我々は、妊娠動物への低酸素負荷が生まれてきた仔の社会性障害や学習機能障害を引き起こすことを以前より報告している。そこで、本研究では、妊娠期の低酸素負荷が胎仔脳に与える影響について評価を加えた。
【方法】実験には、妊娠したF344ラットを使用した。妊娠ラットを低酸素チャンバー内で24時間飼育した。その後、妊娠動物より胎仔を摘出し、これらの胎仔脳より得られた冠状切片を用いた免疫染色法により、細胞増殖能および分化能について評価した。加えて、胎仔脳における神経およびアストログリア新生に関連する遺伝子発現パターンをqPCRにより評価した。
【結果】始めに、胎仔脳を用いた免疫染色では、神経幹細胞および一部の神経前駆細胞に発現するとされているSox2+細胞の増殖能について評価した結果、胎仔新皮質ではSox2+細胞と細胞増殖能のマーカーであるKi67との共局在率は妊娠期低酸素負荷により有意な上昇を示した。また、神経幹細胞分化の指標である非等分裂について、Sox2および神経前駆細胞マーカーであるTbr2との蛍光二重免疫染色により評価した。その結果、神経幹細胞の割合は対照群と比較して有意な上昇を示した。さらに、遺伝子発現解析では、低酸素曝露直後の胎仔脳ではアストログリア関連遺伝子および興奮性神経への運命づけに関わる遺伝子の有意な発現低下を示した。
【結語】妊娠期の低酸素曝露は胎仔脳内において神経幹細胞の増殖を促進し、神経幹細胞の神経あるいはアストロサイトへの分化に影響を与えることが示唆された。