【目的】反復社会敗北 (SD) ストレスを負荷したマウスは、社会性行動試験において、ストレス脆弱性群とストレス抵抗性群の異なる 2 つの社会性行動パターンを示すことが報告されている。これはストレスに対する個体間の感受性の違いが、社会性行動パターンを変化させる要因となることが示唆されているが、その詳細は不明である。
海馬はストレス応答の調節を担う重要な領域として知られているが、一方ストレスに対して脆弱性を示す領域でもある。事実、うつ病や心的外傷ストレス症候群患者の海馬容積は減少しているとの報告がある。そこで、本研究では SD ストレスマウスを用いて、ストレスに対する感受性の変化によって生じる社会性行動の変化が、海馬グリア細胞の発現様式に与える影響について検討を行った。
【方法】社会敗北ストレスは、C57BL/6J 雄性マウス (8 週齢) に攻撃性の強い ICR マウスを 1 日 10分間暴露させ、直接攻撃を与えた。その後、同ゲージに透明のアクリル板を設置し、お互いが見える状況下で間接的なストレスを翌日まで与え、これを 10 日間繰り返し行った。社会性行動の評価には、社会性相互作用 (SI) 試験を用いた。SI ratio は、target 存在下のインターラクション滞在時間を non target 時のインターラクション滞在時間で除した値で表した。SI≦1.0 をストレス脆弱性群 (SD-S) と SI>1.0 をストレス抵抗性群 (SD-R) として示した。Real time PCR 解析を用いて海馬領域におけるグリア細胞関連遺伝子の発現変化を解析した。
【結果・考察】海馬における GFAP mRNA の発現量は、いずれの群においても何ら変化は認められなかった。一方、CD68 mRNA および P2ry12 mRNA の発現量は Control 群と比較して SD-S 群で有意に減少した。Cx3cr1 mRNA の発現量は、Control 群と比較して SD-S 群および SD-R 群いずれも有意に減少した。
【まとめ】本研究結果は、ストレス脆弱性群およびストレス抵抗性群間においてミクログリア関連遺伝子の発現パターンに差が認められることを明らかにした。このミクログリアの発現様式の違いが社会性行動に影響を与えている可能性が考えられる。