【背景】免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor: ICI)を使用した患者の約1割は治療中断を伴う重度の免疫関連有害事象を引き起こす。その中でも心筋炎は非常に高い死亡率を示すため、予防・治療薬の開発が急務である。新薬の開発には、動物モデルが不可欠であるが、既存のICI関連心筋炎モデルPD-1-KO-N10は短命の自然発症モデルであるため、解析可能な期間が短く、予防薬・治療薬の投与及び有効性の評価をする時期の決定が困難であった。一方、PD-1-KO-N12は同様のモデルでありながら、生存期間が長いといった特徴があるが、心筋炎の発症率が低いという問題点があった。本研究ではPD-1-KO-N12に心筋炎誘発剤を用いて実験的心筋炎発症モデルを作成し、ヒトにおけるICI関連心筋炎の病態を模倣できているか評価した。
【方法】BALB/cの野生型およびPD-1KOマウス(PD-1-KO-N12、雄性、8週齢)に心筋ミオシンペプチドと百日咳毒素を投与し、投与21日後に解剖して心筋炎の発症の有無を評価した。心筋組織中の免疫細胞浸潤をHE染色により評価し、心筋繊維化はマッソントリクローム染色により評価した。また、ヒトにおける浸潤リンパ球のサブセットとして確認されているCD4⁺、CD8⁺細胞の関与を蛍光免疫染色により検討した。さらに炎症、繊維化、心筋炎マーカーに関連する遺伝子発現をリアルタイムPCRにより解析した。
【結果】ミオシンを投与したPD-1KOマウスにおいて、ミオシン非投与PD-1KOマウスと比較して、心筋組織への免疫細胞浸潤の増加及び心筋繊維化の進行が確認された。蛍光免疫染色では、心筋組織内へのCD4⁺、CD8⁺細胞の浸潤が確認された。さらにミオシン投与により、心臓における炎症性サイトカインや線維化マーカーが増加する傾向が見られた。
【考察】PD-1-KO-N12 に心筋炎誘発剤ミオシンを投与することで、ICI関連心筋炎の実験モデルとして、簡便かつ再現性のある心筋炎を発症させることができるモデルを作製することができた。今後、本モデルを用いたICI関連心筋炎の新規予防薬・治療薬の開発が期待される。