【目的】ドキソルビシンは、広範囲の腫瘍に対して効果的であるアントラサイクリン系薬である。このドキソルビシンは、用量依存的に心毒性を示し、心不全を発症させる。この心毒性による心不全は、がん患者における治療継続の制限だけでなく生命予後やQOLを左右する大きな要因である。近年、癌など様々な疾患に対して漢方薬の臨床応用が進められている。この漢方薬は複数の生薬を組み合わせたものであり、生薬のほとんどが植物由来である。これら生薬は、ポリフェノールやフラボノイドなどの生薬由来の化合物を含有している。この生薬由来の化合物には、抗酸化作用、抗炎症作用などの生理作用を示すものが数多くあり、アポトーシスを抑制する天然化合物についても幾つか報告がある。そこで本研究の目的は、ドキソルビシンによる心毒性を抑制する漢方薬などを探索することである。
【方法&結果】ラット心臓由来H9c2細胞に漢方薬ライブラリーを用いて、漢方薬・生薬を100μg/ml、生薬由来化合物をそれぞれ10μMで処理した。2h後に0.5μMのドキソルビシンで処理した。24時間培養後、MTS assayにより細胞生存率を評価した。MTS assayの結果、生薬オウゴンに含まれるバイカリン並びにオウゴニンはドキソルビシン処理による細胞生存率を改善した。次に、ドキソルビシンによる細胞死の改善を示した化合物を用いてウエスタンブロッティング法によりアポトーシス関連タンパク質について検討した。ウエスタンブロッティング法の結果、バイカリン並びにオウゴニンはドキソルビシンによるCleaved Caspase-3の増加を抑制した。また、ドキソルビシンによるp38、ERK1/2、JNKのリン酸化もバイカリン並びにオウゴニンは抑制した。最後に、細胞死の改善を示した化合物を含む生薬を用いてMTS assayによりドキソルビシンによる細胞死への影響を評価した。MTS assayを行った結果、生薬オウゴンはドキソルビシンによる細胞死が抑制された。
【考察】本研究より、オウゴニンがドキソルビシン誘導性の細胞傷害を抑制することが示された。オウゴニンがアポトーシスに関連する複数の経路に対して影響を与えたことから、ドキソルビシンによる心毒性を抑制する新たな治療法の開発に繋がることが期待される。