【背景・目的】
慢性腎臓病(CKD)などの腎疾患において、尿毒素インドキシル硫酸(IS)の血中濃度は腎機能低下だけでなく、血管内皮機能障害と強い相関関係を示す。また我々は、正常ラットから摘出した胸部大動脈に対するIS急性曝露が、活性酸素種の一つであるスーパーオキシドアニオン(O2-)産生を亢進し、一酸化窒素(NO)依存性血管弛緩反応を顕著に減弱させることを報告している。しかしながら、ISの長期曝露が血管内皮機能に及ぼす影響は不明であるため、IS飲水投与の影響を検討した。
【方法】
0%(蒸留水)および0.1%(w/v)IS水溶液を雄性Sprague-Dawleyラットに4週間自由飲水させた。0週(IS飲水開始前)、2週および4週目に24時間採尿と採血を行い、血漿および尿中IS濃度の測定並びに腎機能マーカー(クレアチニン、尿蛋白)の測定を行った。飲水開始4週後に剖検を実施し、得られた腎臓は病理組織学的検討に供し、摘出した胸部大動脈はマグヌス法(等尺性張力変化)によりacetylcholine(ACh)およびNO供与体sodium nitroprusside(SNP)に対する血管反応性を評価した。また、胸部大動脈の一部は、ルシゲニン法によるO2- 産生量の測定にも使用した。
【結果】
IS飲水投与後の血漿IS濃度は経時的に上昇し、特に飲水開始4週後はCKD患者やCKDモデル動物と同程度の濃度を示した。しかしながら、各時点における血漿クレアチニンおよび尿蛋白排泄量は2群間で大きな差はみられず、ISを与えたラットにおいて腎組織障害(尿細管障害や腎線維化)も認められなかった。一方、胸部大動脈のAChに対する血管反応性は、IS投与により有意に悪化し、SNP誘発血管弛緩反応も減弱傾向を示した。またIS投与群の胸部大動脈におけるO2- 産生量は増大傾向を示した。
【考察】
IS飲水投与は、腎機能および腎組織変化に対しては影響を及ぼさず、NOを介する血管弛緩反応を減弱させることが示された。すなわち、ISは生体内において直接的な血管毒性を有する可能性が示唆された。