【背景および目的】 PHD finger protein 24(Phf24)はGαi-interacting protein(GINIP)とも呼ばれ、3量体Gタンパク質のGαiサブユニットと相互作用することで、Gi/o共役型受容体の機能を促進的に調節することが示唆されている。我々はこれまでに、自然発症性てんかんモデルNoda epileptic ratの脳内においてPhf24発現が著しく低下していること(Behav. Genet., 47, 609, 2017)、さらに、Phf24欠損ラットでは、けいれん発現の感受性が亢進していることを見出した(Behav. Brain Res., 369, 111922, 2019)。そこで本研究では、Phf24のけいれん発現調節メカニズムを明らかにするため、Phf24欠損ラットの扁桃核における神経伝達物質(グルタミン酸およびGABA)の遊離機能変化をin vivo microdialysis法により評価した。
【方法】 実験には雄性Phf24欠損ラットまたはF344ラット(対照動物)を用い、麻酔下で扁桃核にガイドカニューレを留置した。回復期間の後、透析プローブを介して人工脳脊髄液を灌流し、無麻酔、無拘束下にて扁桃核の細胞外液を回収した。また、脱分極性のシナプス遊離機能を評価する目的で、高K+刺激(50, 100 mMにて各60分間灌流)を与えた。回収したサンプル内に含まれるグルタミン酸およびGABA含量はHPLC法を用いて解析した。
【結果および考察】 Phf24欠損ラットと対照動物であるF344ラットの扁桃核において、グルタミン酸およびGABAの基礎遊離に変化は認められなかった。一方、高K+液灌流による脱分極刺激に対するグルタミン酸およびGABA遊離は、Phf24欠損によりいずれも有意に亢進された。この際、Phf24欠損による遊離亢進は、GABAに比べてグルタミン酸において顕著であり、GABA/グルタミン酸比を比較した場合、Phf24欠損ラットでは扁桃核神経の興奮-抑制バランスが興奮側に傾いていることが示唆された。以上より、Phf24は扁桃核においてグルタミン酸およびGABAの遊離を抑制的に制御しており、Phf24欠損ラットでは、扁桃核神経活動のバランスが興奮側に傾くために、けいれん感受性が亢進されると推察された。