【背景および目的】アセチルコリン神経系の機能低下は、統合失調症の発症に一部関連することが報告されており、特に、ムスカリンM4受容体の精神疾患治療における役割が注目されている(Aust. N. Z. J. Psychiatry, 53, 1059-1069, 2019)。本研究では、統合失調症治療におけるM4受容体の機能を明らかにする目的で、選択的M4受容体作動薬 N-sulfonyl-7-azaindoline derivatives compound 1(NSAD-C1, Bioorg. Med. Chem. Lett., 24, 2909-2912, 2014)の抗精神病作用、認知機能へ及ぼす影響および錐体外路系副作用について評価するとともに、臨床開発中のM1/M4受容体作動薬xanomelineの作用と比較した。
【方法】実験にはddY系雄性マウスを用い、各種M4受容体作動薬の作用を評価した。抗精神病作用については、open-field 装置を用いてapomorphine(APO)誘発運動亢進に対する作用を評価した。認知機能の評価は新奇物体認識試験を行い、さらに錐体外路障害であるブラジキネジア誘発作用の評価はpole-testにより評価した。
【結果】抗精神病作用の評価では、APO誘発運動亢進に対してNSAD-C1(0.3-3 mg/kg, s.c.)は用量依存的な抑制作用を示し、そのED50値はxanomelineの約2.3倍であった。新奇物体認識試験においては、両薬物ともに単独投与では認知機能を障害せず、scopolamineおよびMK-801誘発健忘に対して有意な改善効果を示した。さらに、副作用評価において、NSAD-C1は単独投与でブラジキネジアを誘発せず、3 mg/kg (s.c.)ではむしろhaloperidolよるブラジキネジア発現を改善した。一方、xanomelineは単独投与でブラジキネジアを誘発し、さらに高用量では筋弛緩作用を示した。
【考察】NSAD-C1およびxanomelineはいずれも顕著な抗精神病作用に加え、認知機能障害に対する有意な改善作用を示した。さらに、NSAD-C1はxanomelineにより認められたブラジキネジアの発現や筋弛緩などの副作用を示さなかった。以上の結果より、選択的なM4受容体の活性化は統合失調症治療の新たな治療法として期待される。